創刊25周年記念キャラ文庫小説大賞 結果発表
キャラ文庫創刊25周年を記念し、開催した「キャラ文庫小説大賞」。応募多数の中、丁寧に紡がれた世界観に新しさを感じる5作品が入賞いたしました。
【大賞】賞金50万円+書籍化 or 雑誌掲載検討 担当編集決定!!
「つつけば壊れる」鳴海
≪あらすじ≫
ある日、目覚めると知らない部屋のベットで鎖に繋がれていた――!! 身に覚えのない状況に混乱する大学生の明那。そんな明那の前に現れたのは、同級生で親友の柏木だ。慌てて助けを求めようとしたら、突然キスされてしまった!? さらに真意の見えない瞳で「明那を監禁した」と平然と告げてきて…!?
【優秀賞】賞金20万円 担当編集決定!!
「画家と平凡」畝傍
≪あらすじ≫
父の病気の治療費のため、画家の夢を諦めデザイン会社に勤める基樹。大学のOB会で再会したのは、同期で海外でも活躍する新進気鋭の画家の暁水だ。10年ぶりに会ったにもかかわらず、 暁水は「二人展」に誘ってくる。その上「おまえが描く絵だけじゃなく、基樹だけが俺の特別だ」と迫られて!?
【期待賞】賞金5万円 担当編集決定!!
「軍天使、地に下りて愛を知る」蒼原玉海
≪あらすじ≫
天使が統べる「天界」と、闇が覆う「地界」で隔たれた世界――ある日、地界の闇が溢れ出し世界の均衡が崩れ始めた!? 闇を抑えるため、地界に向かった天使軍第二位のカシユエル。けれど、迎えてくれた地界の長・アルデウスに気に入られてしまい――!?
「第二王子と孤独な天使」紫野 楓
≪あらすじ≫
口づけした相手の傷を、自分に転移させることができる“天使”のアルト。母の言いつけにより人目を避けて暮らしていたある日、森の中で瀕死の重傷を負った青年・ジークを保護する。実は第二王子兼、王国騎士団副団長だという彼に、薬医の腕を見込まれたアルトだけど…!?
「Let’s catch up!~その声を追い掛けて~」芹沢まの ★小説Chara vol.49 &50に掲載!!
≪あらすじ≫
かつて自分の悩みに真摯に答えてくれたアナウンサー・安芸に憧れ、彼が勤めていたラジオ局に入社した湊人。入社早々任されたのは、人気番組のアシスタントだ。メインパーソナリティーのアキは番組から受ける社交的な印象とは違い、湊人は叱られる日々が続き…!?
※受賞5作は担当編集から個別に講評をお伝えいたしますので、サイト上での掲載は控えさせていただきます。
【総評】
「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」にご応募いただきありがとうございました。
心情を掘り下げた現代ものや、タイムリープなど日常にファンタジー要素が加わった作品、また独創的で華やかな異世界ファンタジーまで、みなさんの力作を大変面白く拝読いたしました。
たくさんの応募数に「面白い作品を書きたい」というみなさんの熱を感じることができました。その一方で、突飛なキャラクターや複雑な設定、冒頭から奇をてらった構成など、読者が感情移入できない作品が多々見られました。流行っている設定やジャンルを意識し、その上で個性をだそうと試行錯誤するのはとても大事なことですが、その結果、読者を置いてけぼりにしては本末転倒です。
みなさんの作品を拝読した上で、特に意識していただきたい項目は以下の通りです。ご自身の作品を振り返って、ぜひ次作の糧にしてみてください。
①主人公の目的またはテーマをはっきり意識して書く
主人公に意思や目的がなく、目の前のエピソードやイベントに受動的に流されるだけでは「何を考えているのかわからないキャラ」で終わってしまいます。主人公=読者です。できるだけ冒頭で主人公の人物像や性格、抱えている問題をエピソードとともに提示しましょう。
例えば、人付き合いが苦手で友人がいない主人公は「親しい友人がほしい」もしくは「このまま一人でいい」なのか。まずは主人公自身の現在地を読者に共有する。そうすることで主人公の目的が叶うのか/叶わないのか。そしてその過程で相手がどのように関わり、恋愛が成就していくのかを考えると、物語の結末は自然と定まっていきます。
②主人公視点に統一してみましょう
今回、受・攻の交互視点で描く手法が多く見受けられました。双方の感情がわかる状態では、相手が何を考えているのかというドキドキ感が半減する恐れがあります。また地の文が神視点で書かれていて、主人公にとって大きな出来事やクライマックスシーンで心情描写が足りず盛り上がりに欠ける印象の作品もありました。
デビューを目指すのであれば、まずは主人公に視点を絞ることをおすすめします。主人公が見ている世界や感情、そして相手をどう思っているか/思われているか――工夫を凝らさないと物語が進まないことに気付くと思います。読者を物語に引き込むために、主人公視点で書いてみましょう。
③ファンタジーの世界観は大事な順から説明する
個性豊かなファンタジー世界を楽しませていただいた一方で、情報整理が足りずに読者を混乱させてしまう作品が多く、非常に勿体なく感じました。世界観の説明は必要ですが、その世界のルールや情報を細かく描写すれば伝わるというわけではありません。冒頭で一気に説明すると何が大事かわからず、終盤で出すと後出しになります。
例えば、説明が必要な設定が10個ある場合、主人公に身近な設定から1~2個をエピソードとともに書いてみましょう。順番を考えることで、実は必要な設定は7個で足りることに気付くかもしれません。漠然とした世界観からではなく、主人公を中心に据えた世界からエピソード毎に提示することを意識してみてください。
また、好評につき「第2回キャラ文庫小説大賞」の募集を開始いたします。詳細は新人賞ページをご確認ください。第2回では新たに「ファンタジー部門」「センシティブ部門」を設け、さらに幅広く、奥行きのある物語を募集します!! 誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。
中間選考を通過し、さらにその中でも優秀だった21作品の講評を掲載させていただきます。残念ながら今回は受賞には至りませんでしたが、ぜひ次回作に活かしてください。
「創刊25周年記念キャラ文庫小説大賞」個別講評
「やさしい指先」秋峰まこと
駆け出しの陶芸家と、スランプ中の美大生の年の差BL。文章が柔らかくて読みやすく、丁寧なキャラクター描写にとても好感が持てました。ただ、全体的にぼんやりしていて、印象に残るエピソードがないのが残念。主人公の父親との確執や、それに伴う作品作りへの葛藤、攻のスランプからの脱出があっさりしすぎているように感じました。元カレとの掛け合いや先輩への父性愛など、主人公を取り巻く登場人物たちとの関係性もテンプレの域を出ず、良くも悪くもサラッと読めてしまいます。また、冒頭のワンシーンが雑誌フォーマットで約10P、文庫フォーマットでは約30Pと長いです。物語の導入に情報を詰め込むと、読者はついていけません。すべてを章立てする必要はありませんが、場面転換やシーンの変わり目で行間をあけることを意識するだけで格段に読みやすくなるので、ぜひやってみてください。
「ピンクコーラルの涙」朝海しほ
母親が不倫旅行中に亡くなり、兄と遺品整理をする主人公。手伝いにきた兄の友人の優しい寄り添いに惹かれる一方で、奔放な母親のことを伝えられずにいる苦しさ。そんな揺れ動く主人公の心情が詳細に描かれていて良かったです。ただ、冒頭が説明過多でわかりづらいので、主人公の人物像や人間関係をどのように読者に見せるか、情報の取捨選択が必要です。また母親や家族との不和に重きを置くあまり、恋愛描写が淡泊に感じました。丁寧な心情描写で感情移入はしやすいですが、攻に傾倒していく過程が少し情緒的で雰囲気任せなので、具体的なエピソードが欲しいです。そして地の文が情景豊かに表現しようとするあまりくどくなっているので、描写のメリハリに気を付けましょう。重いテーマを題材にする際は、ことさら読者に共感し楽しんでもらうエンタメ性を意識する必要があります。読者にどこに萌えてほしいのか、客観的に考え次作に取り組んでみてください。
「ツインレイ」天沢千
前世で身分違いの恋に苦しんだ二人が生まれ変わり、再び現世で巡り逢う…。スタンダードな設定ですが、ストーリーラインに無理がなく、自然な文章運びに心地よさを感じます。キャラクターの個性が感じられる会話文にも好感が持てるし、主人公二人の障害となる父親の立ち位置もユニークです。一方で、不必要な視点の入れ替えや、後半の強引な展開が気になります。特に、何の説明もないまま攻の両親と対面させられ、好意を試されるような展開は、とても好きな人の立場に寄り添った愛情のある行為とは思えません。二人の関係性を掘り下げた上で、どうすれば読者が共感できるドラマチックなラストになるか、再考してみてください。加えて、キャラクターの作り込みが甘く、魅力に乏しい印象です。前世と現世で二人の立場に変化を出すなど、生まれ変わりものならではの創意工夫があると、なお良かったと思います。
「雪王子と泣かない薬屋の解呪」糸文かろ
流した涙の滴が凝固し、宝石のように輝く「ラクリマの民」をめぐるファンタジー。二人がゆっくりと心を通わせる中で、王子の呪いや国の問題が明らかになり、その解決が恋愛の成就と嚙み合っていて胸打たれました。ただ、「一級品の涙」をキーワードにするのであれば、主人公の出自がわかった段階で、攻を助けるためにまず自分が泣いてみようとなぜ思わないのか疑問が残ります。キャラクターの感情よりも、最初に決めた設定やストーリーを優先するプロット書きになってしまっている印象を受けました。また、視点が交互で書かれているため恋愛面でのドキドキがなく、読者にとってお互いの気持ちがわかっているうえで告白しても盛り上がりません。設定にオリジナリティもありとても面白かったので、次は視点を主人公に絞って感情移入させることを意識して書いてみてほしいと思います。
「人喰鬼の花嫁」うららかりんこ
人喰い鬼×贄として育てられた青年、という王道な組み合わせに加え、受・攻共に非常に好感の持てる作品でした。そんな主役の二人には実は悲しい因縁があり、それが国の在り方を見つめなおす展開に繋がっていくドキドキ感も面白かったです。一方、二人の島暮らしが丁寧すぎて、肝心な気持ちの変化まで緩やかでは飽きてしまう。スパダリ感満載の攻は魅力的ですが、贄として犠牲になることだけを考えて生きてきた受の価値観を覆すほど印象的なエピソードは残念ながらありません。1シーンごとに明確なテーマを置いて、話の構成にメリハリを持たせてほしいです。また、オメガバースをアレンジした要素は面白いですが、ラブシーンを入れるため以上の必要性を感じませんでした。壮大な世界観だからこそ、設定の穴をできるだけ無くし、主人公の心情に迫った作品作りを目指してください。
「ムスカリをまどろみに」嘉屋有栖
タイムリープものと言えば「主人公が誰かのために時間軸を移動するもの」というのが定番ですが、今作は受視点での物語ながら、念願叶って付き合えた攻が実はタイムリープをしていた、という着想が良かったです。ただ、攻からタイムリープの事実を聞くまで、普通の恋人同士の日常が続いていきます。お話の主軸がどこにあって、何を読ませたいのかが見えてこず、前半は冗長に感じました。タイムリープの事実を隠しつつ受の死を避けるために行動する攻に対して、受はもっと違和感を持つはずです。せっかくどんでん返しが待っている作品なので、前半に伏線を散りばめていく構成にしたほうがより物語に引き込めたと思います。視点となった人物が語らないと、読者には情報として何も入ってきません。主人公が起きている出来事をきちんと観察し、何を考えているのかを意識して、もっと主人公視点に寄った文章を心がけましょう。
「ゼロのシリウス」久保木りつ
誰もが魔力を持った世界で一人だけ魔力がない主人公と、魔力過多で力を持て余した攻が、国内で起こる事件に巻き込まれる――作りこまれた世界観と、恋愛と事件を絡めた構成にオリジナリティを感じました。ただ、序盤は世界観の説明と事件についての伏線を張り巡らすことを意識しすぎて、物語に入るまでに苦労しました。傍点を使うことでその文言の印象付けもできますが、あまりにも多用しすぎるとノイズになってしまいます。回想も何度も入ってくるため、読者が作中で起こった出来事について一つ一つ整理する必要が出てきます。時間軸の整理と事件についての情報開示の順番を今一度考えてみてください。また、情景描写は丁寧でしたが、その反面主人公の心情描写が弱く感じられました。攻に対してと自身の特殊な性質についてどう思っているのか、物語を進めていく中で核となる部分だけでも、序盤からきちんと明示していたほうが良かったと思います。
「ガイズ・イン・ザ・フィッシュボウル」蔵雲ヨウ
アンガーマネジメント治療中の25歳攻と、DVで視力を失った48歳の受。心に傷を負った二人が、互いの事情を知らずに惹かれあう――。万人受けする設定ではありませんが、痛みと実直に向き合った再起の物語は、没入感が高く引き込まれました。アメリカを舞台にした作品ならではの軽快な会話も魅力的です。その一方で、主人公二人の抱える過去や問題がそれぞれに複雑で、読者に伝わりづらい印象を受けます。この作品を通して一番描きたいことは何か、まずは主軸を固め、テーマを絞って書いてみてください。構成面では、視点が頻繁に入れ替わるため、感情移入しづらく感じます。重いテーマを扱うからこそ視点を固定し、読者が共感しやすいキャラクター作りを意識してみてください。特に受は48歳という年齢にしては、話し方が幼い印象を受けるので、せめて30代にするなど、読者が入りやすい人物設定に見直してみましょう。
「初恋と最愛の記憶」小波ほたる
記憶と感情を定量化した「メモリ」と「フォーマット」――それらをめぐる高校生たちの恋と再会を描いた一作。文章は読みやすく、相手の記憶を失った主人公が再会を経て結ばれるという王道の展開は好感が持てます。ただファンタジーというよりはSF要素が強く、冒頭では用語の説明に多くの文量を割いているものの、「メモリが容量を超えると死ぬ」というルールの基準が曖昧で、物語に必要な情報が提示されないため、読者の理解と共感を得られない懸念があります。世界観の設定先行ではなく、主人公のテーマを主軸に据えた、読者を意識した作品作りを心掛けてください。また、攻に自分を覚えていてほしいという受の感情と、再会して記憶を手探りで手繰り寄せていく展開が会話メインで行われるので、心情が動く上での説得力が弱いです。具体的なエピソードを重ねていけば、読者がもっとキャラクターに寄り添うことができる、深みのある作品になるはずです。
「その感情を恋と呼べ」設楽ひえん
努力型の秀才と、感覚型の天才な二人が書道を通じて抱く、互いへの葛藤と執着を描いた一作。絵画や音楽ではなく、書道を選んだことがオリジナリティを感じる一方で、少々地味な印象は拭えません。とはいえ、痛いくらいの感情を浴びて圧倒された部分もありました。ただ、攻が抱く受への劣等感を冒頭で語らせてしまったが故に、受のテーマが霞んでしまったように感じました。感情を軸にするのであれば、視点は一人に絞った方が読者は感情移入しやすいです。主人公である受の言動、ほぼすべてが攻ありきになっている上、世界に二人しかいないので、彼の人生に厚みが出てきません。生きた人間を書くのであれば、第三者との関わりなどもきちんと描いて、一人一人のバックグラウンドを掘り下げてください。それがないと、読後感は「なんとなくいい話だったな」で終わってしまうと思います。
「恋知らずの龍人は初恋にその身を捧ぐ」四宮薬子
竜人+皇太子と文官+オメガバース風味と、華やかな世界観ながら、「恋とは命がけでするもの」という実直なテーマが大変面白かったです。設定の一つ一つはユニークなので、序盤に世界設定をきちんと説明してもらえたら、もっと楽しく読めたように思います。後出し情報が多い上に、言葉選びやキャラクターの口調が時代背景と合っていないため没入感に欠けます。代筆を通して、交わるはずのない身分差の二人が心を通わせていく流れも作りとしては自然だと思いますが、語り手が主人公ではなく神視点なので、終始淡白な印象でした。二人が惹かれ合う具体的なエピソードがなかったのも相まって、作中でテーマを感じられなかったのが残念。また、冒頭にクライマックスを持ってくる構成は、いざそのシーンが描かれても、余程の演出が為されない限り予定調和で終わるのであまりおすすめしません。
「愛しき魔法人形の夢と目覚め 」 瀬々らぎ凛
自分が作った人形を愛してしまった大魔術師の受という興味を惹く設定、また最終的に国の革命へと繋がっていく壮大な流れが独創的でとても面白かったです。人間と人形という、相容れない二人の種族を超えたふれあいや葛藤が丁寧に描かれていました。ただ、物語の土台である魔法人形や大魔術師の設定があやふやだったので、キャラクターや世界観はプロットの段階でもっと作り込んだほうが良いです。また、書き方が感情メインの感覚的なものなので、エピソードが雰囲気に流されている感じが否めません。大きな出来事が起きているのに、キャラの心情が入っていないので共感できず、神視点で眺めているだけになってしまっているのが残念でした。キャラ萌えして書いているのはすごく伝わってくるので、もう少し起承転結を意識して、かつメイン視点である受のテーマを中心に据えて書いてみてください。
「嘘つきの魔術師ギイの3つの約束」相田翠
本当は男なのに、周囲から女性に見えてしまう「呪い」を解きたい――解呪師を探すため魔術特区で囚人の監視役を任された主人公が、囚人である攻の罪を晴らすとともに自身にかかった呪いを解く。作りこまれた世界観や脇役含めたキャラクターの設定、受と攻の関係性は面白く読めました。会話も軽快で生き生きしており、作風に合っていたかと思います。ただ、肝心の「女性に見える」呪いの大変さが冒頭のエピソードでは見えてこないため、なんとしてでも解呪したいという主人公の切迫感が伝わらず、物語に入り込みにくかったです。もっと主人公自身が核となる、読者の共感性が高いエピソードをテーマに据えてみてはいかがでしょうか。また、視点が頻繁に交互するため、せっかく攻が姿を偽っているのに読者にはそれがすべてわかってしまい、面白さが半減していました。視点を一人の人物に統一させた上で、情報の整理を行いましょう。
「泣き屋と番犬」タカツ己詩
潜入捜査官が”泣き屋”の青年に出会い、連続殺人事件を追っていく――絡み合う過去やサイコパスの犯人など、複雑な設定を物語に落とし込もうとする点が評価できる作品です。その一方で、真実に直面するクライマックスや、お互いの正体をバラしてのやり取りなど、本来盛り上がるべきところにメリハリがないのが残念です。ひとえに書き方の問題で、このような物語は極力一人の視点で謎解き風にした方が、読者は臨場感やスリルを味わえて奥行きが出てきます。神視点だと感情が乗らず淡々と進むので、大きな展開を迎えたシーンでも読み飛ばしてしまいます。もっと地の文を三人称キャラ視点にしてみましょう。そうすることで読者はキャラクターに感情移入し、物語への没入感がでます。また、恋愛感情も二人の気持ちが双方で描かれており、読者のドキドキ感は半減します。次作では視点の統一を意識してみてください。
「月の婚約者」多岐川あきら
絵描きの卵としての主人公の悩みや葛藤がとても深みのある表現で描写され、読んでいて引き込まれます。攻が受に惹かれていく過程も丁寧で、ピカソのデッサンのエピソードがとても良かったです。ただ、地の文が多く全体的に硬い印象を受けました。ラブシーンは会話が少なく淡々としていたので、もっと二人が盛り上がる情緒的な雰囲気がほしいです。またストーリーありきで進んでいくので、主人公のキャラが立っているようで立っていない点が残念でした。二人の喋り方に差異がなかったので、会話の中にも二人の人間性・性格を出す工夫をしてみましょう。また、プロット通りに物語を進めている印象で、キャラの心情や行動に説得力がないように感じました。父と友人、身近な二人の死という重いエピソードが、単なる物語の彩りになってはいけません。エピソードをキャラクターの変化・成長と深くリンクさせることをぜひ意識してください。
「世界がきれいだということを。」柮火おと
仕事のミスでエリート街道から外れた元潜水艦乗りの海自自衛官と、家族について心に傷を持つヤクザ――。一見接点のない二人の組み合わせに意外性があって良かったです。ただ、初対面のヤクザから家を借りるという冒頭の出会いが、キャッチーさ優先でキャラクターの性格を無視しているように見えました。自衛官という堅い職業なのに、感情に流されがちな人物という印象を受けてしまいます。こういう背景を持つ人物ならどういうことを考えて、どういう行動を取るのかをもっと意識して、キャラクターを掘り下げてみましょう。ラストシーンも攻視点にスライドしてしまっていたので、誰の何の話だったのかがぼやけてしまいました。また、一つ一つの台詞が長くなりがちなところも気になりました。せっかく決め台詞を言わせても、10行もの長文の中では埋もれてしまいます。きちんと印象に残すために、視覚的にも読みやすい文章を工夫してみましょう。
「魔術師と雪の使い魔」長朔みかげ
人間たちの見世物として飼われていた聖獣グリフォンの主人公が、攻の大魔術師に助けられ心を少しずつ開いていく。その後順調に結ばれるかと思いきや、攻が抱えるトラウマのせいですれ違う、という展開に引き込まれました。ただ、設定ものとしては作り込みが足りず、貴重なグリフォンであることの長所や短所という人間との差別化ができていないので、今のままだと可愛いペットになってしまいます。また、受の不思議な運命に感情移入してハラハラドキドキしたいのに、展開が他力本願で受が自ら動かず、物語全体を通して振り回されている印象を受けます。問題提起がなされないままラストを迎えるので、恋愛が成就してもカタルシスが感じられません。主人公に消化すべきテーマや変化を持たせないと中だるみしてしまうので、次回はぜひ物語の主軸となるテーマを意識してみてください。
「太陽の王は水の底に睡る」猫森千世
灼熱の砂漠を統治する王と、ふたなりの雨巫子――そんな運命的な出会いを果たした二人が惹かれ合い、永遠に繋がる様子が力強く描かれ、独特な着想に引き込まれました。特殊な設定なので読者を選びそうではありますが、読みやすい文章でしっかり書けていて世界観に説得力があります。一方で、無意識下の受を無理やり襲うエピソードに共感しづらく、倫理的にやりすぎ感も否めません。また、王である攻の喋り方から威厳が伝わってこず、キャラぶれを感じました。喋り方はキャラ立ちにおいてとても大事なので、必ず意識するようにしてください。攻と受の交互視点で物語が進み、同じ話を二度読んでいる印象を受けたので、交通整理も必要です。二人が結ばれてからの攻の溺愛化が性急に感じられたので、もう少し葛藤などを入れると物語により緩急が出てくるかと思います。
「俺は貴方に抱かれたい」村嶋優音
同僚と上司への恋心に揺れる、コールセンターを舞台にした三角関係。他人との接触を避けて生きてきた主人公が、人を愛することで変わっていく様子を、丁寧に描いたストーリーに好感が持てます。その一方で、攻への想いを自覚する過程が地の文だけで描かれており、エピソード不足で説得力に欠ける印象です。終盤の攻視点からの気持ちの吐露が、都合のよい解説パートに感じられる点も気になります。別視点を入れる場合は、別キャラで話を進めるような意識で書いてみてください。また、受の容姿など後出しが多いので、必要な情報はなるべく早く出しましょう。キャラ立ちは悪くないですが、キャラ萌えが先行して主人公自身に解消するべきテーマがないように感じます。次作では恋愛とは別に、主人公の人間的成長が感じられるテーマを設定してみてください。描いた先に読者がいることを意識した作品づくりを期待しています。
「お隣さんはヤリたい放題‼」唯一透空
毎週金曜日になると聞こえてくる隣人の情事の声に悩まされるという、わかりやすくて物語に一気に引き込まれるキャッチーな導入でした。主人公である攻のぐるぐるした葛藤が丁寧に描かれていて良かったのですが、恋愛しかしていないので具体的なエピソードに欠けます。受の秘密だけで終盤まで物語をもたせるのは冗長ですし、メリハリがありません。テーマがなくキャラ萌え頼りになっているため、キャラクターが読み手にハマらないと物語に入りづらくなってしまいます。また、二人でいるほとんどの場面が家の中のため、舞台に変化がなく世界が狭い印象を受けます。そのうえ、主人公が大学生なのにその描写が全くなく、バイト先での人間関係もよくわからないので、その人となりが見えてこないのは物語の主役として致命的。もっと生きた人間として書くことを意識すると、自然とキャラクターに深みが出てくると思います。
「アンチノミーの愛の撚り糸」佳岡頬
小さな村で養父と暮らす主人公が、ある日怪しげな旅人と出会うことで物語が動き出すファンタジー。ヒトの姿をした”彼虚”という災厄の設定にオリジナリティがあり、養父との別れのシーンでは深い心情描写に胸を打たれました。ただ世界観が壮大な一方で、受に「こうしたい」という目的意識がなくテーマが希薄です。そのため村の子供から始まる冒頭や会話から、物語全体の行き先が分からず冗長に感じてしまいます。災厄に拘わらず平穏に暮らしたいのか、出奔するに至った事件の真相を知りたいのか、受の出発点を決めましょう。また、地の文も神視点で情報過多です。ファンタジーでは世界観の説明が必要ですが、設定や衣食住を細かく描写すれば良いというわけではありません。もっと受視点に寄って情報の取捨選択を意識的に行ってください。一番勿体ないと感じたのは、養父との関係がメインになっていて攻との恋愛が物足りない点です。花の香りで発情するなど外的な要因に頼らず、攻とのエピソードを以て恋愛を描いてほしいです。
※公平を期するため、選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。