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英田サキ先生 逝去のお知らせ

お知らせ

小説家の英田サキ先生が、2024年8月27日の朝にご病気のため逝去されました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

英田先生は2004年に単行本デビューされ、2006年にキャラ文庫より「DEADLOCK」を上梓されました。以来、現在まで続く大人気シリーズ「DEADLOCK」を始め、コミカライズやアンソロジーなども含め約30冊の書籍をご執筆いただきました。

最後にいただいた原稿は、7月のバースデーフェア用「DEADLOCK」番外編でした。打ち合わせでは、この秋発売の『小説Chara』で番外編を書きたいとおっしゃっていて、ユウトとディックたち、DEADLOCKワールドの人物たちのこれからについても展望をうかがっておりました。どんな作品を書いても、英田先生の物語には骨太な世界観と緻密な構成、魅力的なキャラクターたちが常に生き生きと躍動していました。これからも生み出されるはずだった、そんな物語を読者の皆様にお届けできないことが、残念で、また無念でなりません。

読者の皆様には、これからも英田先生が生み出された物語とそのキャラクターたちを愛し、末永く作品を読み続けていただけますよう心より願っております。

なお御葬儀はご家族にて執り行われましたため、お手紙以外の御供物や贈り物等はご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

英田サキ先生の生前の多大なご功績に敬意と感謝を表し、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


 株式会社徳間書店 Chara編集部一同

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第3回 キャラ文庫小説大賞 質問回答 

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「第2回 キャラ文庫小説大賞」結果発表後に募集した、「第3回 キャラ文庫小説大賞」に関する疑問・お悩みにご回答いただいたみなさんありがとうございました。たくさんの質問をお寄せいただいた中から、みなさんの関心が高く重複していた7つの質問について回答いたします。Q&Aをぜひじっくり読んで、みなさんの「第3回 キャラ文庫小説大賞」の応募にお役立てください!! たくさんのご応募お待ちしております!

※尚、質問内容の意図を損なわない程度に、編集部にて一部文章を調整しております旨ご了承ください。

▼第2回 キャラ文庫小説大賞、最終結果はこちら

Q1. 『世界観、キャラ、文章、全てにおいて詰めが甘い。だからデビューできない』と言われたことが複数回あります(他社の講評、プロ作家など)。よろしければ、その対策についてご教授ください。(PN:しの)
A1. 『全てにおいて詰めが甘い』とはおそらく「最後までなんとなく読めるけれど、読者の印象に残らない作品」になっているのかもしれません。物語の読後感が「面白かった!」という満足感ではなく、世界観や設定、キャラクターなどの好感度や共感度が、読者の好み頼りになっている可能性があるなら、たとえデビューできたとしてもプロとして続けていくことは難しいでしょう。

 まずは「第2回」の総評でお伝えした3つの点を踏まえて、読者に感情移入させるために、主人公を中心にした物語づくりを意識してください。
 そして次に考えてみていただきたいのは「もし誰かに自分の作品を紹介するとしたら、どんなふうに説明するか」です。物語の導入でもキャラクターの関係性でもかまいません。

例えば、
 ・姉王女の身代わりに隣国に嫁ぐ王子。バレたら殺される、と悲愴な覚悟で婚礼の夜を迎えるけれど……キャラ文庫「花降る王子の婚礼」
 ・弱冠24歳のCEOがいる、平均年齢20代半ばの若い会社に、なぜか営業一筋の34歳の主人公が採用されてしまった!!キャラ文庫「社長、会議に出てください!」
 ・大人気ソシャゲの最推しキャラが、現代世界に生身となって転生してきた!?キャラ文庫「推しが現実(リアル)にやってきた」

など、ほんの一言で「読みたい」「面白そう」と思わせることができそうですか? そして物語の中心にちゃんと主人公はいますか? 主人公=読者です。読者を意識した掴みを意識すればデビューに近づくと思います。
Q2. キャラクターを考えるのにとにかく時間がかかります。「明るくて前向き」というキャラクターならば、なぜそのような性格になったのか、生まれや家庭環境は……と半生を遡って考える(設定する)のですが、せっかく細かいところまで考えても、キャラクターがいきいき動いていく手応えがありません。そもそもこういう考え方でいいのか分からず、悩んでいます。 (PN:ハムチーズ)
A2. 創作に正解はありませんが、質問内容を見る限り手応えがないとのことで、ハムチーズさんにとってはあまり良い方法とは言えないかと思います。
おそらくキャラクター単体の設定から作りはじめようとしていませんか? その場合、掘り下げる段階が早すぎるのかもしれません。考えた設定をすべて物語に落とし込もうとしてしまった結果、必要のないエピソードが入り不自由さが生まれているのではないでしょうか。

まずは、主人公の基本的な性格をはじめに「3つ」程度決める。基本的な性格以外は、実は対人関係の相手によって生まれてくる「反応」です。そしてそれが一番キャラクターを差別化させるキモなのです。

例えば「自分よりも上の立場の人に理不尽なことを言われたら言い返す(気が強い)」性格の主人公とします。その舞台が現代社会で、相手が上司の場合、状況によっては周囲から敬遠されたり、空気が読めないと後ろ指をさされるかもしれません。また、ファンタジー世界の場合、貴族に物申す正義感のある平民の代表として頼りにされるかもしれません。同じ性格や反応でも、立場や世界観によって読者の印象は大きく変わります。
そのため、主人公の半生を細かく設定することから始めるよりも、基本の性格を絞った上で、主人公がどの世界で何を目的に行動するのか、物語自体の方向性を決めてみましょう。
Q3. 「第1回」「第2回」ともに現代ものが受賞していると思うのですが、ファンタジーよりも現代ものを求めているのでしょうか。 (PN:麦畑)
A3. キャラ文庫が求めているのは「主人公が恋愛を通し葛藤して成長する、物語としての面白さ」です。もし「現代もののほうが受賞しやすい」と認識していらっしゃるようでしたら、それは大きな誤りです。
人によっては、ファンタジーと違って世界観や設定がないぶん現代もののほうが書きやすいと思われるかもしれませんが、読者に楽しんでもらうためにはファンタジーと同じくらい惹きつける仕掛けが必要になります。
「第3回」ではジャンルでの選考は設けておりませんので、主人公の成長を描く上で一番ふさわしい舞台の作品をお待ちしております。
Q4. 応募作にR18描写は必須となるかをお聞きしたいです。 (PN:晩川まなえ)
A4. R18描写がないという理由だけで、選考に落ちるということはありません。ただ、BLというジャンルにおいて読者が期待している要素ではあります。そのため、R18描写がないことが物語上に重大な意味をもたない限りは入れることをおすすめします。
Q5. 応募要項に同じ世界観や設定のものを2作品応募したら選考外になるとありましたが、例えば現代の世界観で、キャラクターや話や恋をする過程が全く違うものを2作応募した場合、それは世界観が同じなので選考外になりますか?
それとも2作品ともファンタジーで世界観も同じだけれど、作品ごとにキャラクターが違っているみたいなものが選考対象外になるのでしょうか? (PN:鳴咲ユーキ)
A5. 「ひとり最大2作まで応募OK(ただし、同じ世界観や設定は選考外)」としたのは応募者の作品の幅や興味の範囲を見たいためです。
「第1回」「第2回」と続けて応募いただいた方や「第2回」で2作応募いただいた方の作品を拝読して、テーマや設定が似通った作品もあれば、全く違う作品もありました。やはりデビューを目指している段階ではできるだけ多くの引き出しがあるほうが、デビュー後も力になると考えています。
そのため質問に挙げていただいている例だけで選考外と判断することはできませんが、2作応募しようとお考えの方はぜひ「こういう作品も書けます」とアピールしてみてください!
Q6. 「上達できる・期待できる書き手」の特徴は何でしょうか?
同じ人がリピートで作品を応募した場合、読んで「前作より良くなっている」と思うのは、逆に「成長を感じない」と思うのはどのような時ですか? (PN:小波ほたる)
A6. 2つポイントを挙げるなら『技術』と『アイデア』です。伝わりやすい描写ができているかという技術と、一言で「面白そう」と読者に思ってもらえるかというアイデアに着目しています。
「第2回」の選考において「前作より良くなっている」と感じた作品は、伝わりやすい描写やキャッチーで惹きのある設定など、前作より読者を楽しませようとする姿勢が見られました。その一方で、難解な描写や同じような設定の作品が続くと「似たようなお話しか書けないのかもしれない」と感じざるをえません。

文章や構成は意識した上で数をこなせば上達しますが、アイデアは書き手自身からしか生まれません。継続して応募いただいている方の成長性もみていますので、「第3回」では技術とアイデアを意識した作品作りをしてみてください。
Q7. いつも同じような展開やキャラクターになってしまうのが悩みです。創作を始めて約1年半なのですが、ちょっと設定が違うだけでなんとなく同じような話を書いているような気がしています。 (PN:風船)
A7. おそらく起承転結やキャラクターが無意識にパターン化してしまっているのだと思います。そういった癖から抜け出すには、とにかくインプットを増やしてみてください。読者であれば自分の好きなものだけを楽しく消費すればいいですが、作家を目指すのであれば普段は手に取らないものにも積極的に触れましょう。
キャラ文庫はもちろん、BLに限らずドラマやアニメ、映画に漫画、あらゆるエンタメでOKです。まずは寝る前や通勤電車中など1日30分から始めて、習慣化してみてください。筋トレと同じく毎日コツコツ続けることで必ず身についていきます。その上で、どこが面白いのかなぜ面白くないと感じるのか分析することで、自分の中に創作の引き出しが増えていくと思います。

「第3回 キャラ文庫小説大賞」質問募集!第2弾!
「第3回キャラ文庫小説大賞」に関する疑問に編集部がお答えします。応募にあたっての質問や創作の悩みなどどんなことでもOKです!みなさんの質問をお待ちしております。

募集期間:10/4(金)~10/15(月)21:00
回答:「小説Chara vol.51」(11/22(金)発売)、または、Chara公式サイト上

※ご記入いただいた内容は、当目的以外での利用はいたしません
※すべての質問には回答できない場合がございます


「第3回 キャラ文庫小説大賞」開催中!
好評につき「第3回 キャラ文庫小説大賞」を開催しています。
キャラ文庫が大切にしているのは、萌えはもちろん、主人公が恋愛を通し葛藤して成長する──≪物語としての面白さ≫です。現代ものでもファンタジーでもどのような設定でも大歓迎。
読者の心に強く残り大切な一冊として本棚に置かれる――愛され続ける作品を書きたいあなたをお待ちしています!!

大賞:50万円+書籍化 or 雑誌掲載検討
締切:2025年1月13日(月)23:59(郵送の場合は当日消印有効)


応募のきまり他詳細はこちら

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第2回 キャラ文庫小説大賞 結果発表(総評&個別講評)

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「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」が好評につき開催した、「第2回 キャラ文庫小説大賞」。応募多数の中、深い心理描写とドラマティックな展開が光る3作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「特別な君と普通の恋」野宮まち
≪あらすじ≫
IT企業の営業から、突然システム開発部に異動になった律(りつ)。同じチームになったのは、「天才だけど人付き合いに難あり」と有名なエンジニアの桐生(きりゅう)だ。不愛想で挨拶もろくにせず、同僚からも遠巻きにされている一匹狼。そんな桐生をなぜか放っておけず、サポートに奔走する日々で…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
ブルー・タイム・パラドクス春田梨野
≪あらすじ≫
大学時代の元カレが殺害されてしまった――!! かつて最悪の別れ方をした倫(りん)の死に驚愕するサラリーマンの唯人(ゆいと)。思いを馳せていたその晩、突然何者かに押し入られ、今度は唯人が刺されてしまう。ところが、目覚めるとなぜか大学生に戻っていた!! やり直せるならもうあんな苦しい恋はしたくない、と倫と関わらない決意をするけれど…!?

【期待賞】賞金5万円 担当編集決定!!
「海の底で夜は明ける」椋木鳴

≪あらすじ≫
演技仕事が多いせいで俳優に間違われる芸人の七崎(ななさき)。5年前に事故で亡くした想い人で相方とのコンビ名を残すため、どんな仕事でも引き受けている。そんな多忙の中、唯一の癒しは近所の喫茶店店員・深海(ふかうみ)だ。芸人時代からのファンだと七崎を心配してくる深海に、ある日「料理の作り置きをさせてくれないか」と頼まれ…!?

※受賞した3作の講評はChara8月号(6/21(金)発売)に掲載しております

【総評】

 「第2回 キャラ文庫小説大賞」にご応募いただきありがとうございました。深い心理描写が胸を刺す現代ものや、華やかでドラマティックなファンタジー作品など、前回を超える応募数にみなさんの熱量を感じることができました。
 けれど、今回は「ファンタジー部門」「センシティブ部門」というジャンルを設けた結果、部門名に影響を受けすぎた作品も多々見受けられました。例えばファンタジー部門では複雑な設定で読者を置いてけぼりに。センシティブ部門では起承転結が弱く、辻褄はあっているけれど目新しくない既視感のある展開などがありました。
 だからといって「奇抜なアイデア」「独創的な設定」「読者受けの良いキャラ」を考えてほしいというわけではありません。読みやすい文体やすんなり頭の中に思い浮かぶ描写、人物像など、読者に届けるためには「どう伝えるか」という『技術』が必要です。
 アイデアや設定、キャラクターは作品ごとに変えることができますが、文章そのものは自分では意識しにくいです。それを踏まえて下記3つの点に留意して、ぜひ次作の糧にしてみてください。


①「三人称主人公視点」で書いてみましょう

 今回は、前回の総評でお伝えした「主人公視点への統一」を意識した作品が増え、物語への没入感を感じることができました。その一方で、地の文が神視点(俯瞰的)な作品も多く、主人公の心情がわかりにくかったです。読者に感情移入させるために、まずは三人称主人公視点にすることを意識してみてください。そうすると主人公が見たもの感じたものが地の文に溶け込み、自然と感情に寄り添った表現になります。以下のように文末ひとつとっても主人公の感情に差が出てきます。
 例)
 神視点の場合
 ・「攻が声をかけてきた。」→客観的な事実
 三人称主人公視点の場合
 ・「攻が声をかけてくれた。」→喜びや期待
 ・「攻に声をかけられてしまった。」→嫌悪感や困惑

 他にも、応募フォーマット3段1Pすべてが地の文になっていたら要注意です。俯瞰的な事実を淡々と書き連ねるだけでは読者は疲れて、いくら大事なことを書いても読み落としてしまいます。まずは三人称主人公視点に絞った上で、エピソードか会話にするか、そもそもすべての情報を一気に説明する必要があるのか改めて考えてみましょう。地の文が2段を超えてきたらセルフチェックしてみてください。


②主人公の内面の変化を描きましょう

 今回ファンタジー部門では「世界観や設定に巻き込まれるだけで主人公自身の成長を感じられない」、センシティブ部門では「特に主人公が行動せず、相手からのアプローチによって両想いになるだけ」といった作品が多く見受けられました。
 読者があなたの作品を読み終わった時に、どんな読後感を得るか想像しながら書いていますか? 話の辻褄があっているだけでは感動は生まれませんし、恋愛が成就することはBL読者にとっては当たり前で予定調和です。例えば人間不信で周囲を拒絶してきた主人公が、相手との関係を築く中で信頼し合う喜びに気付いていく、というような、恋愛成就に加えて「主人公自身の内面の変化」を意識してみてください。
 またBLでは受・攻という二人がメインに見えてしまいますが、小説における物語の主人公は基本的に1人です。相手との恋愛を通して主人公の考え方や生き方がどう変わっているか、物語の始めと終わりの変化の幅が大きければ大きいほど、読者の読み応えや満足度につながっていきます。


③シーンの始めには5W1H、主人公の感情の立ち位置を書く

 映画の場面転換を想像してみてください。最初に場所、時間(昼夜・季節など)、その場面の登場人物が1秒で観ている人に伝わります。しかし小説は映像ではないので一瞬で伝えることはできません。
 今回の応募作では1ページ読み進めた後に回想だとわかったり、前のシーンからどのくらい時間が経っているのかわかるようでわからず、状況を把握するのに苦労する作品もありました。
 文章でわかりやすく伝えるために、シーン始めに「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうやって」という5W1Hを書いてみましょう。主人公がどんな感情でその場面にいるのかも入れてみてください。例えば、前のシーンで片想いの相手に告白された場合、次のシーンがその日の夜なら嬉しさや興奮でいっぱいかもしれないですし、1週間経っても会えていなかったら相手からの好意を疑いだすかもしれません。
 ぜひたくさんのキャラ文庫の作品を読んで、冒頭やシーン変えでどのように表現されているか着目してみてください。説明的になりすぎず、さりげなく描写されていることに気付くと思います。

また、好評につき「第3回 キャラ文庫小説大賞」の募集を開始いたします。詳細は新人賞ページをご確認ください。誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。


中間選考を通過した中から、22作品の講評を掲載させていただきます。残念ながら今回は受賞には至りませんでしたが、ぜひ次回作に活かしてください。


「第2回キャラ文庫小説大賞」個別講評

ファンタジー部門

「孤独な魔王と人質の花嫁」青木なつき

 兄王子のスペアでしかない自分に虚しさを抱き、自らの意思で騎士団に所属する第二王子。ところが城が魔族に襲撃され、受は魔王の花嫁に差し出されることになってしまう。しかもその魔王が実はルームメイト兼親友で!? という導入がキャッチーで、楽しく読み始めることができました。脇キャラも個性豊かで、悲惨な運命を背負わされる主人公とは裏腹に、軽い文体で両片想いを描けていると思います。
 読み進めるごとにどんどん文章がノッていて、作者自身も楽しく書いている様子が伝わり好感が持てますが、思いつくままに書いている印象も拭えません。それゆえに、終盤で唐突に政治劇が始まったかと思えば、会話のみで協定が結ばれる超展開に、置いてけぼりにされてしまいました。孤独を抱えた者同士の救済と、異種族が暮らす国同士の雪解け、どちらも中途半端で、何を伝えたいお話なのかが不鮮明です。主人公が幸せになれてよかった、と共感できなければすべてが都合のいい話で終わってしまうので、もっと主人公を中心に据えた物語づくりを目指してください。

「月のオメガはアンドロイド侯爵の夢を見るか」雨井湖音

 ディストピアSF×オメガバース。大戦後、アルファだけが残った地球での生存戦略として、地球外に追いやられたオメガを攫う…という導入は面白いと思いました。その反面、AIに支配された地球人対、反AIの月面人という対立関係が判明しお話は複雑化するのに、肝心な主人公にテーマがありません。受自身がどんな人物で何をしたいのかがよくわからないので、物語のゴールも見えないまま、難解な話が展開されている印象でした。
 このページ数でこの設定を書き上げた筆力は単純にすごいですし、世界観に合った三人称主人公視点の文体で読みやすかったです。ただ主人公の性格出しと、月の文化レベルが大戦前と同等であることや、月面人(=主人公)が想像している地球の文化レベルを冒頭でエピソードとして明示すべきです。そうでないと主人公の心情に共感できず、情報・設定が積み重なっていくばかりで、物語としての面白さが半減されてしまいます。BL小説はあくまでラブストーリーです。どんなキャラクターがどんな恋をするのかという、読者が求める根幹部分を忘れないでいてください。

「傷の聖騎士」甘崎禅之助

 悪魔退治を生業とする聖騎士を目指す主人公が、上級騎士の攻の元で成長していくファンタジー。主人公視点で書くことが意識されていて、前作の戦後を舞台にしたお話から格段に読みやすくなっていました。
 悪魔関連の語彙や詠唱を使った戦闘シーン等、世界観を作りこもうとする意欲は見られたのですが、様々な概念の説明がないまま進んでいくのが気になりました。読み手の知識に頼る書き方は、読者をふるいにかけ限定してしまいます。どれだけ自分の頭の中で世界が広がっていたとしても、読者にとっては初めましてのキャラクター・世界観です。理解と共感を得られなければ、効果は半減します。
 また文章が淡泊で、心情描写が薄く感じました。そのため、聖騎士を目指す具体的な理由や、攻が主人公を騎士にしたくない理由が判明した場面の掘り下げがない等、全体的に盛り上がりに欠けます。どれだけ呪文や戦いを描いても、肝心の恋愛の過程にワクワクしなければ逆に読み飛ばされるパートになるので、キャラクターを掘り下げつつ、読者に寄り沿う書き方を心がけてください。

「魔法のランプと恋のレガート」遠間千早

 精霊への謁見を目指す旅人の攻と、攻に拾われたランプに宿る火の精霊が主人公の冒険譚。基本的には主人公の視点になっているものの、書き方が神視点なので地の文が多く、ページが進むわりには物語がなかなか始まらず冗長に感じました。また作中用語の「ジン」という主人公の種族の説明がないまま話が進むので、作品の世界観がよくわからず少し戸惑いました。
 主人公のキャラクターもかわいらしく、設定自体は面白いのですが、出会いから理由もなく溺愛に近いので関係性の発展も弱く、感情移入した書き方ができていないのでダイナミックなクライマックスや感情が引き起こす紆余曲折が描けないのがもったいないです。ラストは、なんらかの理由で謁見に間に合う、または精霊の計らいで謁見⇨選ばれて断る、という流れの方が盛り上がると思います。最初にプロットをきちんと作り、この展開は盛り上がるかどうかを考え、それが読み手の期待を上手く裏切る、または予想以上に応える、のどちらになっているのか推敲してください。

「当方天才魔術師、推しを王にしたら、次は俺の子を孕む薬を作れと言われました。」櫻坂とおこ

 魔術師の主人公が昔馴染みの王に命じられ作った「男体妊娠薬」をめぐるファンタジー。天才故に傍若無人で精神的に未熟な魔術師が、王となった攻の重い愛に気づくという主人公の心情の変化が描かれていた一作でした。
 テーマが明確で主人公の成長もわかりやすい一方で、主人公が感情的に動いた結果、世界観や設定が後付けされるので理解するのに苦労しました。ファンタジーは感情描写だけでは最後まで読者を飽かさず引っ張ることはできません。他にも本来エピソードにした方が説得力が増す部分が、地の文でさらっと書かれていたところもありました。どのエピソードでどの情報を出すか精査することで、もっと読み応えのある作品になると思います。
 また、神視点と主人公視点が入り混じっていたり、地の文をさらに括弧で補足したりと文体が感覚的です。そのせいか一国の王と強い力を持つ魔術師という責任のある立場の人間なのに、全体的に軽い印象を受けます。三人称主人公視点に寄せることで、目の前の問題が自分事になり、文体にも一貫性と読みやすさがでるので意識してみてください。

「最後の愛の記憶(メモリ)」小波ほたる

 人間が持てる感情と記憶には容量があり、限界に達すると死ぬ――その容量を増やすための手術開発に携わる研究者達の物語に、熱く心を打たれました。前回の講評を受けて、読みやすくしようとする工夫が伝わってきました。
 その一方で、地の文が硬くて三人称神視点に近い印象を受けます。また、世界観の設定や説明がまだ曖昧で理解しづらい点が多いです。独自の世界観は、読者にとって当たり前のものではありません。地の文で世界観を説明するだけでは感情移入しづらいので、誰かの感情に乗せた説明が必要になります。例えば、突然変異が起こった5-60年前当時の人々はどういう反応をしたのか。主人公は、この世界に対してどういう感情を抱いているのか。そこを軸にすることで、エピソードや展開が変わってくるはずです。
 また世界観に重きを置きすぎるあまり、なぜこの人を好きになったのかというエピソードが希薄で、なんとなく惹かれているという程度の印象しか持てませんでした。次作はぜひ、主人公の内面の変化を最優先にしてお話を作ってみてください。

「アンドロイドの吐息は濁らない」設楽ひえん

 アンドロイドが働く近未来。職にあぶれた主人公がアンドロイドだと偽り、攻が支配人のホテルに勤め始めるが…!? 受視点に統一された文章が読みやすく、アイデアも個性的で面白いと思います。
 けれど、主人公の人間らしい行動を、攻や客がまったく疑っていないことがとても不自然です。読み手に違和感を持たれないよう、世界観やルール設定をもっとしっかりと練りましょう。また、前作で指摘した「二人だけの世界」を脱しようと第三者を登場させたことは評価できますが、お話に影響を及ぼす働きをしているわけではないので、名前のあるモブの域を出ていません。
 主人公にもお金稼ぎ以外の目的やテーマがなく、家庭の事情も冒頭に出てきたきりなので、なんのために働くのか共感しづらいです。例えば、「人間ならではのサービスを目指す」とか、「兄弟の学費を稼がないといけない」などの具体的な目的があれば働く理由になりますが、働きたいからという漠然とした理由では説得力に欠けます。主人公のバックボーンを深掘り、明確なテーマを持たせることで、よりドラマティックなエピソードが生まれるはずです。

「星墜ちるころ」相田翆

 目覚めたら記憶を失っていた上、身内に暗殺されかけている。そんな伯爵令息の主人公が逃げ込んだ騎士団には「貴方が嫌いです」と言って辞職した侍従がいた――。設定のアイデアや着想にオリジナリティを感じ、キャラクター同士の会話も軽快で一気に物語に引き込まれました。
 ただ、主人公の目的意識がぼんやりしているせいで、「失った記憶を取り戻す話」なのか、「不治の病を治す話」なのか、「敷かれたレールから外れ、自分にしかなれないものを探す話」なのか、物語の方向性が二転三転したように感じます。主人公が記憶をなくした理由も書かれておらず、記憶の取り戻し方にも法則性がありません。全体的にプロット通りに都合よくエピソードを作っている印象だったので、まずは主人公がどういう風に成長する話なのか、プロットの段階から一本のシンプルな軸を作りましょう。
 前作に比べ視点の統一はできていたので、次は三人称主人公視点にもチャレンジしてみましょう。壮大なファンタジーである一方で後出し設定が多く見受けられたので、読者が世界観を思い描けるように情報の整理をしてください。

「初心なヴァルキューレは悪神に惑う」長朔みかげ

 前世であるヴァルキューレの使命に揺れる一方で、罪悪感を抱えながらも恋に憧れる主人公が、前世で敵対していた悪神ロキと再会するファンタジー。北欧神話をベースにした世界観に転生ものの要素が加わり、キャッチーで楽しく拝読しました。
 一方で、三人称神視点の地の文の硬さと、キャラクターの軽快な話し方がミスマッチで没入感に欠けます。加えて、設定の作りこみも甘く、キャラクターの前世が神である意味や、神話を活かした展開が希薄で、勢いまかせな印象です。悪逆非道な前世を持つ攻が、終始軽く都合のいい存在に描かれており違和感を覚えます。
 また、主人公のテーマが「使命を全うすること」なのか「ヴァルキューレの檻から抜け出すこと」なのかが曖昧で、結果として物語に流されているように感じました。主人公の目的意識が見えなければ、物語を通しての変化が感じられず、恋愛成就にも納得感が得られません。まずは、主人公のテーマを明確にすることを意識してみてください。

「青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ」葉咲透織

 憧れの人間世界に召喚された、できそこないの火の精霊――けれど水の精霊と勘違いされたまま、攻である御巫との交流が始まる、というキャッチーな冒頭に引き込まれました。実は二人は過去に出会っていたり、陰謀や戦争が絡んでいたりと、ドキドキさせられるエピソードもたくさんありました。
 ただし、主人公に明確な目的があるようでないので、なりゆきで物語が進んでいく印象を受けます。「人間界に行きたい」も主人公の目的の一つですが、人間界に召喚された時点でそれは叶ってしまいます。早々に目的が達成されると、その後の展開をどういう指針で読めば良いのか、読者が迷子になりかねません。
 そのため、主人公の自身に対する感情の出発点が冒頭に欲しいです。「できそこないのままでいい」のか、「精霊としての役割を果たしたい」のか。そして物語が終わった時に、それがどう変化していたか。軸ができれば、キャラにも一貫性が増し、物語にもより深みが出るかと思います。設定の着眼点はとても面白いので、次作はぜひ「物語を通して解決したい主人公の感情の出発点」を意識してみてください。

「悪魔が棲む町~引きこもり精霊、夜烏と出会う~」藤多畑

 悪魔だけを斬る剣に宿る精霊と契約依頼をしに来た精霊士が、悪魔が関わる連続殺人事件を追う――。無垢で世間知らずな受の精霊と、悪い大人な人間の攻の組み合わせや、二人の会話・掛け合いのテンポがよく面白く読めました。
 その反面、攻は受に対して最初横柄な態度をとっていたはずが、いつの間にか受を溺愛していた印象です。何がきっかけで恋に落ちたのか理由が弱く、気持ちの変化がわかりづらいです。また、前作より地の文は減っていましたが、それでもまだ説明過多で冗長に感じました。短いシーンの中にも何を伝えたいのかテーマが必要です。全体で見ると、攻が殺人事件を解決するために受を探していたのに、世界観や契約者の説明が続き、事件解決のために動き出すまでが長いです。突然二人の距離が縮まり、事件も犯人の予想がつきやすい謎解きだけのあっさりとした内容に感じました。
 二人が事件を通して成長し、恋愛面でも距離を縮める様子を描くことを意識してみてください。キャラクターの好感度は高いので、世界観と設定を活かしたエピソードが作れればぐっと読み応えが増すと思います。

「あのメロディの舞台裏」森洲うらら

 「なりたいものになれ」と両親に言われて育ったのになりたい職業も見つからず、学校でもモブ扱いの主人公が転移したのは、好きなゲームの世界。流行りの異世界転移ものでありつつも、主人公がなるのは勇者でも騎士でもなく、宿屋の『笛吹き』という意外性が面白かったです。
 三人称主人公視点に統一された文章で、主人公のテーマもはっきりしていたのは良かったですが、もう1本の応募作とテーマや攻を好きだと気付く展開等、全体的に似通っているように感じました。物語としての起承転結が弱く、せっかくの設定を活かしきれないのはもったいないです。インプットを増やし、地の文で心情の変化を描くだけでなく、もっとエピソードを練って物語を作っていくよう意識してみてください。
 また掲げたテーマに対して、恋愛以外の部分で主人公がどういう気づきを得て、どんな行動を取るのかという結論がないとぼんやりしたラストになってしまいます。主人公の成長に加えて、実は第四王子だったという宿屋主人の攻にも、序盤との変化が見えるとさらに深みのある作品になるはずです。


センシティブ部門

「Lies to you」朝海しほ

 ケガで現役引退した陸上選手が、建築家を目指す高校時代の同級生と再会し再起する物語。三人称主人公視点で書かれていて、キャラも共感しやすく読みやすかったです。
 その一方で、全体的に会話劇で物事が進んでいっているように思えます。前作もですが、物語の進め方として、サブキャラが喋る→受けが思考→次に攻めと会話→行き詰まったらサブキャラと会話、という流れなのでドラマにメリハリがなく、主人公が変化し成長している様子がみられません。会話だけでドラマティックさを演出することは難しいです。
 嘘つきで損をしている人を主人公にするのなら、攻との再会や仕事を通して正直に行動できるようにならないと、冒頭の幼稚園のエピソードがどこにも繋がらないラストになってしまいます。このお話は、選手として跳べなくなった自分をどう受け入れ、恋と仕事を通じていかに成長していくかという主人公の物語です。BLなので恋愛を描くのはもちろんですが、それ以外のテーマをしっかりと描くことで読者の心をより掴めると思います。

「父の恋人」緒川ゆい

 自由奔放で家族を捨てた父親の葬儀で出会った父の恋人は、若く美しい男だった――。印象的な冒頭から始まり、恋愛を通して主人公の父に対する確執が解けていく様子がしっかり描かれていました。
 三人称主人公視点の読みやすい文章で進む一方で、中盤で明かされた受の過去が特に伏線がなかったため唐突に感じられました。また、主人公の抱える葛藤が「父親の恋人を好きになったこと」なのか「元犯罪者の息子を好きになったこと」なのか、渾然一体となっていたように思えます。
 攻の弟を庇い受が刺されるラストも、絵としてはわかりやすい山場であり事件としても派手ですが、主人公である攻自身に特に関係がなく、この物語のクライマックスとしてはとても散漫に感じられました。主人公が掲げたテーマにじっくりと向き合い、どういったエピソードがあれば冒頭との変化を出せるかをもっと考えてみましょう。また、心情が変化した結果主人公がどういう行動に移すかを描くことで、読み応えにも繋がります。

「あと五分が待てなかった。」熾月あおい

 周囲からは合格確実と思われていたのに、高校受験の結果は不合格――。気に食わない塾講師への腹いせに、答案を白紙で出した主人公。人生を棒に振ったその後から始まる再生の物語に、一気に引き込まれました。
 前作とは異なるジャンルに挑戦する姿勢にも好感が持てます。また、作中に散りばめられた文学のたとえ話や蘊蓄から、作者が小説を読み込んでいることが窺え、構成やアイデアにも工夫が見られます。
 その一方で、地の文が冗長で、小説というにはあと一歩物足りない印象です。例えば、途中で登場したキャラクターが、あまり交流を深めることなく死んでも、エピソードが少なければ読者には刺さりません。読者を主人公の視点に引き込んで感情移入させてからなら、共通の知人の死を乗り越えてハッピーエンドに至るまで、もっとドラマティックに盛り上げることができたはず。エンタメとして、読者が読むことを想定し、物語を膨らませてみてください。そのためには、主人公がこの物語を通してどのように成長(変化)するのか、起承転結をプロットの段階でもっと作り込んでみましょう。

「彼の『愛してる』は他人のもの」須宮りんこ

 主人公は、 “声”を武器に生計を立てている動画配信者という今どきのキャラクター。恋人を亡くした攻からの依頼で、亡き恋人の声真似をするうち、一途な彼に惹かれていくストーリーが繊細に描かれていました。
 柔らかく読みやすい文章ですが、大きな山場もなく、「故人を想い続ける相手に片想いする」という切ない雰囲気頼りになってしまっているのが惜しいところ。前作には、転生という“色”がありましたが、センシティブ一本だとよりその印象が顕著でした。痛々しい疑似恋愛で読み手の胸を衝くことはできても、なぜそうまでして関わりを持とうとするのか、主人公の意図がわからずでは、たとえ過去を乗り越えて想いを成就させても大きな感動にはなりえません。何より、一途である攻が、受から提案された疑似恋愛を受け入れたのはなぜですか?
 相手を救うことで自分も救われるという、王道な道筋がある分、勝負するポイントは登場人物の心情変化にかかっていると言っても過言ではありません。より共感性が高く、設定にオリジナリティのあるキャラクターになっているか見返してみてください。

「別れさせ屋と冥婚の伴侶」タカツ四季

 亡くなった姉の恋人への片想いに苦しむ主人公。幼馴染みで別れさせ屋の攻に恋心との決別を依頼するが、故郷で冥婚をめぐる殺人事件に巻き込まれていく。恋愛だけではなく事件や設定を入れ、読者を楽しませようとする点は評価できます。
 けれど、設定の説明や事件解決への出来事に多くの分量が割かれており、肝心の主人公の感情描写が希薄です。そのため片想いへの疑問や昇華、攻の献身的な愛に気づくといった主人公の感情の流れが唐突で、気がついたら攻に絆され両想いになっていたように感じました。出来事やエピソード、周囲の行動によって物語を動かすのではなく、主人公の心情を中心に物語を動かしましょう。そうすることで本当にその設定が必要か判断しやすくなると思います。
 また、前作でも殺人事件や特殊な職業が出てきており今作と似た印象です。推理小説なら犯人を特定するのが大事ですが、恋愛小説においてはそれだけでは物足りません。読者を引き込む設定を作ろうとする姿勢はとてもいいので、次作では地の文から主人公の感情に寄せることを意識してみてください。

「君のために出来ること」トオノホカゲ

 元ヤン養護教諭の受と、ろくでもない父と二人暮らしの高校生の攻。愛された経験の乏しい二人が、丁寧に感情を育んでいくところに好感が持てました。読みやすい文体で、受が攻のために自ら行動していく姿勢も良かったです。
 一方で受の言動が年齢の割に幼く、言葉遣いが半端に悪い一面を「元ヤンだから」で済ませているような印象を受けました。また親友のような立ち位置のカウンセラーが、都合よくそばにいて片想いしていたりと、プロット通りの箱書きになっていて説得力が弱いです。途中から攻が受をきっかけなく「千草さん」と下の名前で呼んだり、印象的な登場シーンのない当て馬の生徒が「俺を選んだほうがいい」と告白する等、物語上都合のいいリアリティに欠ける台詞回しが多く感じました。
 自分都合でキャラを動かしても、読者からは共感されづらいです。キャラに寄り添えなければ、いくら辻褄が合っていても読者は感動しません。先生と生徒という関係性をふまえて、その台詞が本当にふさわしいか、キャラの行動は共感できるものかを意識してみてください。

「長恨の雪虫」柮火おと

 自分を裏切った幼馴染みを探すため潜水艦乗りとして働く主人公と、厳しい指導で有名な副長。過去に傷を負った主人公が攻との交流を通して再起に向かう――前作同様、緻密な仕事描写とドラマティックなシーンづくりが巧みで読み応えがありました。課題であった地の文の長さにも改善が見られ、視覚的に読みやすい文章作りができています。
 その一方で、地の文が神視点に近く、主人公に感情移入しづらい印象です。特に冒頭は読者を物語に引き込むための入口です。客観的な事実を書き連ねるのではなく、「主人公が何を思って行動しているか」心情を意識して書いてみてください。
 また前作と同じく、主人公が自衛官であるという設定の偏りが気になります。知識があるからこそ、どの程度現実に即した描写にするか、フィクションとのバランスを見直してみましょう。読者が読み終わった後にどのような感想をもつか考え、カタルシスや恋が成就してよかったなど、満足度の高い読後感を意識してみてください。

「Nude」鈍野世海

 幼い頃、偶然出会った攻に描いた絵を否定され、仄暗い情熱を燃やし美大に進学した主人公。やがて芸能人となった攻と再会し、復讐のためヌードモデルを依頼して…!? 二人の歪んだ感情が複雑に絡み合った再会愛、大変読み応えがありました。地の文が多く少し冗長に感じますが、心情描写を意識的に取り入れている点に好感が持てます。
 その一方で、主人公の絵が嫌いと言って疎遠になってしまう展開は、きっかけとなるエピソードが弱く、説得力に欠ける印象です。主人公に異常なほどの執着を見せる攻が、ここまで再会を引き延ばす理由が感じられません。クライマックスの主人公の才能に嫉妬した同期が、アトリエに火をつけるという展開もありがちで半端に感じられます。物語を盛り上げるために事件ありきで設定を組んでしまうのは、読者の感情を置き去りにしかねません。
 書きたいシーンやセリフの間を地の文で埋めて繋いでいるような印象を受けるので、まずはキャラクターの目的とゴールを明確にし、そのために必要な展開を見直してみましょう。

「食事はひとりで、もしくはきみと」にわのすみ

 「食事はひとりで食べるに限る」をモットーとした主人公が、お一人様不可の店に行くためにSNSで出会った攻と食事に行く――。着想として現代的な導入や、攻の「フードコーディネーター」という専門的な職業に、知識欲を刺激されました。
 文章も丁寧な三人称主人公視点で読みやすくはありましたが、地の文で最後まで攻のことを「サキさん」と呼んでいたのが気になります。主人公視点と一人称は似て非なるものなので、意識してください。
 また、人付き合いが苦手という設定なのに、些細なことで仲違いをし、攻の実家の青森まで追いかける行動力に違和感がありました。キャラクターに合わせた展開というよりも、ストーリーを成立させるためのエピソードに思えます。ラストもふんわりとしていて、主人公の成長や変化がわかりにくいです。食を通して、人付き合いや会社でのスタンスが変わったか、変わらないんだとしたらなぜ変わらなかったのか、そこが書かれていないと、物語としての普遍性は弱く共感もしづらいお話になってしまいます。

「とあるNo.1ホストの都落ち」藤吉とわ

 太客の姫とトラブルを起こし、一時的に田舎に避難したホストの主人公。文体が主人公の受視点に統一されており、また田舎の描写や空気感も伝わってきやすく、物語に入り込みやすかったです。前作よりも主人公への共感性も高く、起承転結のメリハリがあり楽しく拝読しました。
 一方で、キャラクターの作り込みが甘い点と、コンパクトにまとまっているがゆえに展開が予定調和な点が気になります。攻も元ホストですが、なぜ辞めたのかの経緯などがわかりづらいです。また世界にほぼ二人しかおらず、二人だけで動かすエピソードや展開には限界があります。祖父が登場しますが、特に二人の仲を怪しまないので、都合のよいキャラになっている印象を受けます。これといった特筆するエピソードがないまま、お互いになんとなく惹かれていった印象なので、もっと具体的なエピソードが欲しいです。
 キャラに萌えて書いているのはとても伝わってくるので、次作はぜひ、総評で取り上げた「主人公の内面の変化」を意識して書いてみてください。そうすることで、情報を出す順番や盛り込むエピソードの具体性も変わってくるかと思います。

中間選考通過者で上記個別講評に漏れた方の中で、ご希望の方に簡単な個別講評をお送りします。

受付期間内に希望連絡いただいた方に7月25日(木)に送信を完了いたしました。
「ch-info@shoten.tokuma.com」から連絡いたしましたので、未着の方は「迷惑メール」に届いていないかご確認ください。
※応募いただいた作品への個別講評となります。改稿作や新作の送付はお断りしております。
※お送りした個別講評に関しましては、無断転載・引用・インターネット上やSNSへの掲載はご遠慮ください。

「第3回 キャラ文庫小説大賞」Q&A

「第3回 キャラ文庫小説大賞」応募予定の方から募集した質問に編集部が回答いたしました。ぜひじっくり読んで、応募作づくりにお役立てください!! たくさんのご応募お待ちしております!

「第3回 キャラ文庫小説大賞」Q&Aはこちら

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」大賞受賞作 書籍化決定!!

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」で大賞を受賞した『つつけば壊れる』(著:鳴海)の書籍化が決定! 2024年秋頃に発売予定です。ぜひ続報をお待ちください♥
※タイトルは変更になる場合がございます。

※公平を期するため、第2回キャラ文庫小説大賞選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。

第2回 キャラ文庫小説大賞 結果発表

更新

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」が好評につき開催した、「第2回 キャラ文庫小説大賞」。応募多数の中、深い心理描写とドラマティックな展開が光る3作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「特別な君と普通の恋」野宮まち
≪あらすじ≫
IT企業の営業から、突然システム開発部に異動になった律(りつ)。同じチームになったのは、「天才だけど人付き合いに難あり」と有名なエンジニアの桐生(きりゅう)だ。不愛想で挨拶もろくにせず、同僚からも遠巻きにされている一匹狼。そんな桐生をなぜか放っておけず、サポートに奔走する日々で…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
ブルー・タイム・パラドクス春田梨野
≪あらすじ≫
大学時代の元カレが殺害されてしまった――!! かつて最悪の別れ方をした倫(りん)の死に驚愕するサラリーマンの唯人(ゆいと)。思いを馳せていたその晩、突然何者かに押し入られ、今度は唯人が刺されてしまう。ところが、目覚めるとなぜか大学生に戻っていた!! やり直せるならもうあんな苦しい恋はしたくない、と倫と関わらない決意をするけれど…!?

【期待賞】賞金5万円 担当編集決定!!
「海の底で夜は明ける」椋木鳴

≪あらすじ≫
演技仕事が多いせいで俳優に間違われる芸人の七崎(ななさき)。5年前に事故で亡くした想い人で相方とのコンビ名を残すため、どんな仕事でも引き受けている。そんな多忙の中、唯一の癒しは近所の喫茶店店員・深海(ふかうみ)だ。芸人時代からのファンだと七崎を心配してくる深海に、ある日「料理の作り置きをさせてくれないか」と頼まれ…!?

※受賞した3作の講評はChara8月号(6/21(金)発売)に掲載しております

第2回 キャラ文庫小説大賞」の総評と受賞外の一部作品の講評は、7/1(月)にChara公式サイトにて掲載いたします。

「第3回 キャラ文庫小説大賞」開催決定!!

好評につき「第3回 キャラ文庫小説大賞」の開催が決定!
誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。詳細は下記よりご確認ください。

第3回 キャラ文庫小説大賞 詳細

応募予定の方の質問大募集!

「第3回 キャラ文庫小説大賞」に関する疑問に編集部がお答えします。応募にあたっての質問や創作の悩みなどどんなことでもOK!下記質問フォームよりお待ちしております。

質問受付フォーム
募集期間:6/21(金)~7/8(月)21:00
回答:7/19(金)Chara公式サイト上

※すべての質問には回答できない場合がございます

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」大賞受賞作 書籍化決定!!

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」で大賞を受賞した『つつけば壊れる』(著:鳴海)の書籍化が決定! 2024年秋頃に発売予定です。ぜひ続報をお待ちください♥
※タイトルは変更になる場合がございます

※公平を期するため、第2回キャラ文庫小説大賞選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。

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第2回キャラ文庫小説大賞 中間発表

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「第2回 キャラ文庫小説大賞」の中間選考が終了し、最終選考に進む作品が決定しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。

厳正な審査の結果、最終選考の候補となったのは以下の57作品(ファンタジー部門25作品、センシティブ部門32作品)です。(※敬称略・50音順)

また、この中から有望な方には、
★担当編集者がつき、次回作をバックアップします。
★編集部から個別に講評をお返しします。

ファンタジー部門≪25作品≫

ペンネームタイトル
青木なつき孤独な魔王と人質の花嫁
雨井湖音月のオメガはアンドロイド侯爵の夢を見るか
甘崎禅之助傷の聖騎士
天音月那エバーブルー
遠間千早魔法のランプと恋のレガート
櫻坂とおこ当方天才魔術師、推しを王にしたら、
次は俺の子を孕む薬を作れと言われました。
久保木りつ至愚の腹を苺は満たせるか
小波ほたる最後の愛の記憶
彩けい声を聞かせて
汐見おるは月にほえれば
設楽ひえんアンドロイドの吐息は濁らない
相田翆星墜ちるころ
透綿瑠璃エレスセーアの物語
長朔みかげ初心なヴァルキューレは悪神に惑う
猫森千世久遠の果てに虹を待つ
葉咲透織青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ
春田梨野ブルー・タイム・パラドクス
萬里一モノノケ祓いワンパンにつき!
緋田はずみ碧落のマグノリア
神父と悪魔の最期の旅
藤多畑悪魔が棲む町~引きこもり精霊、夜烏と出会う~
藤間背骨不在証明の薔薇
藤龍河天狗様と恋をする
森洲うららあのメロディの舞台裏
夕月雅貴運び屋は嘘つき男娼に愛されたい

センシティブ部門≪32作品≫

ペンネームタイトル
葵未悠青白色のデリート
秋本きらあなたが欲しいと言えなくて
朝海しほLies to you
天ケ瀬なぎセンターコートは君の光
雨宮理久イリーガルラブ
緒川ゆい父の恋人
川崎葵失う悲しみが導く先に
桐山アリヲ暁に手をのばす
椋木鳴海の底で夜は明ける
群青恋にともなう痛みについて
桜ノ肇影、延びる日は
迫いつき僕らはあの夏を、きっと何度も思い出す
雫川サラ春が、来る。
熾月あおいあと五分が待てなかった。
鈴木すずそれでも好きだと言いたかった
須宮りんこ彼の『愛してる』は他人のもの
瀬川香夜子花は一人で咲いているか
タカツ四季別れさせ屋と冥婚の伴侶
多岐川あきら夜明けまでのディスタンス
トオノホカゲ君のために出来ること
柮火おと長恨の雪虫
中原涼Dinner
鈍野世海Nude
にわのすみ食事はひとりで、もしくはきみと
野宮まち特別な君と普通の恋
晩川まなえ探偵は王子じゃない
藤吉とわとあるNo.1ホストの都落ち
ましろい冬野君の隣で恋を歌っていた
真魚ゐ僕の愛しい料理人
村井あさひファーストキスまで六〇〇日
矢野白馬男の歌姫
よしうらいつか心中するふたりに

最終選考結果は、6/21(金)発売のChara8月号ならびに公式サイトにて発表いたします。
大賞作品は書籍化or雑誌掲載検討!
引き続き、ご注目ください。

※公平を期するため、選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。


▼第1回キャラ文庫小説大賞、最終結果ならびに総評はこちら


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先生方へのメッセージ・お手紙の宛先について

お知らせ

作品の感想、先生方へのメッセージは、【こちら】で受け付けております!
または、メールでもお送りいただけます。
(いただいた感想は編集部より各先生方へ転送させていただきます)

尚、お手紙をお送りいただく際には、以下の宛先までお送りください。

<宛先>
〒141-8202 
東京都品川区上大崎3-1-1
徳間書店Chara編集部 ○○先生 係

※2018年2月5日より、住所が変更となりました。

尚、プレゼントにつきましては以下の物はお預かりすることができませんので、ご注意ください。

<お預かりできない物>
・賞味期限が2か月以内の食品類(飲み物含む)
・手作りや賞味期限の記載のない食品類
・要冷蔵、要冷凍、溶けやすい食品類

・生花
・こわれもの、われもの、天地無用のもの
・現金、金券、商品券

※転送は月1~2回程度行っており、日付のご指定はいただけません。お誕生日や季節の贈り物は余裕をもってお送りいただくようお願いいたします。
※お手紙・プレゼントは担当編集が確認させて頂いております。上記内容以外のものであっても、不適切だと思われる内容のお手紙・プレゼントにつきましては、ご本人へお届けいたしかねます。
※お届けできなかったお手紙・プレゼントの返送はいたしかねます。あらかじめご了承くださいませ。

読者の皆さまのご理解とご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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創刊25周年記念キャラ文庫小説大賞 結果発表

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キャラ文庫創刊25周年を記念し、開催した「キャラ文庫小説大賞」。応募多数の中、丁寧に紡がれた世界観に新しさを感じる5作品が入賞いたしました。

【大賞】賞金50万円+書籍化 or 雑誌掲載検討 担当編集決定!!
「つつけば壊れる」鳴海

≪あらすじ≫
ある日、目覚めると知らない部屋のベットで鎖に繋がれていた――!! 身に覚えのない状況に混乱する大学生の明那。そんな明那の前に現れたのは、同級生で親友の柏木だ。慌てて助けを求めようとしたら、突然キスされてしまった!? さらに真意の見えない瞳で「明那を監禁した」と平然と告げてきて…!?

【優秀賞】賞金20万円 担当編集決定!!
「画家と平凡」畝傍
≪あらすじ≫
父の病気の治療費のため、画家の夢を諦めデザイン会社に勤める基樹。大学のOB会で再会したのは、同期で海外でも活躍する新進気鋭の画家の暁水だ。10年ぶりに会ったにもかかわらず、 暁水は「二人展」に誘ってくる。その上「おまえが描く絵だけじゃなく、基樹だけが俺の特別だ」と迫られて!?

【期待賞】賞金5万円 担当編集決定!!
「軍天使、地に下りて愛を知る」蒼原玉海
≪あらすじ≫
天使が統べる「天界」と、闇が覆う「地界」で隔たれた世界――ある日、地界の闇が溢れ出し世界の均衡が崩れ始めた!? 闇を抑えるため、地界に向かった天使軍第二位のカシユエル。けれど、迎えてくれた地界の長・アルデウスに気に入られてしまい――!?

「第二王子と孤独な天使」紫野 楓
≪あらすじ≫
口づけした相手の傷を、自分に転移させることができる“天使”のアルト。母の言いつけにより人目を避けて暮らしていたある日、森の中で瀕死の重傷を負った青年・ジークを保護する。実は第二王子兼、王国騎士団副団長だという彼に、薬医の腕を見込まれたアルトだけど…!?

「Let’s catch up!~その声を追い掛けて~」芹沢まの  小説Chara vol.49 50に掲載!!                
≪あらすじ≫
かつて自分の悩みに真摯に答えてくれたアナウンサー・安芸に憧れ、彼が勤めていたラジオ局に入社した湊人。入社早々任されたのは、人気番組のアシスタントだ。メインパーソナリティーのアキは番組から受ける社交的な印象とは違い、湊人は叱られる日々が続き…!?

※受賞5作は担当編集から個別に講評をお伝えいたしますので、サイト上での掲載は控えさせていただきます。

【総評】

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」にご応募いただきありがとうございました。
心情を掘り下げた現代ものや、タイムリープなど日常にファンタジー要素が加わった作品、また独創的で華やかな異世界ファンタジーまで、みなさんの力作を大変面白く拝読いたしました。
たくさんの応募数に「面白い作品を書きたい」というみなさんの熱を感じることができました。その一方で、突飛なキャラクターや複雑な設定、冒頭から奇をてらった構成など、読者が感情移入できない作品が多々見られました。流行っている設定やジャンルを意識し、その上で個性をだそうと試行錯誤するのはとても大事なことですが、その結果、読者を置いてけぼりにしては本末転倒です。
みなさんの作品を拝読した上で、特に意識していただきたい項目は以下の通りです。ご自身の作品を振り返って、ぜひ次作の糧にしてみてください。


①主人公の目的またはテーマをはっきり意識して書く

主人公に意思や目的がなく、目の前のエピソードやイベントに受動的に流されるだけでは「何を考えているのかわからないキャラ」で終わってしまいます。主人公=読者です。できるだけ冒頭で主人公の人物像や性格、抱えている問題をエピソードとともに提示しましょう。
例えば、人付き合いが苦手で友人がいない主人公は「親しい友人がほしい」もしくは「このまま一人でいい」なのか。まずは主人公自身の現在地を読者に共有する。そうすることで主人公の目的が叶うのか/叶わないのか。そしてその過程で相手がどのように関わり、恋愛が成就していくのかを考えると、物語の結末は自然と定まっていきます。


②主人公視点に統一してみましょう

今回、受・攻の交互視点で描く手法が多く見受けられました。双方の感情がわかる状態では、相手が何を考えているのかというドキドキ感が半減する恐れがあります。また地の文が神視点で書かれていて、主人公にとって大きな出来事やクライマックスシーンで心情描写が足りず盛り上がりに欠ける印象の作品もありました。
デビューを目指すのであれば、まずは主人公に視点を絞ることをおすすめします。主人公が見ている世界や感情、そして相手をどう思っているか/思われているか――工夫を凝らさないと物語が進まないことに気付くと思います。読者を物語に引き込むために、主人公視点で書いてみましょう。


③ファンタジーの世界観は大事な順から説明する

個性豊かなファンタジー世界を楽しませていただいた一方で、情報整理が足りずに読者を混乱させてしまう作品が多く、非常に勿体なく感じました。世界観の説明は必要ですが、その世界のルールや情報を細かく描写すれば伝わるというわけではありません。冒頭で一気に説明すると何が大事かわからず、終盤で出すと後出しになります。
例えば、説明が必要な設定が10個ある場合、主人公に身近な設定から1~2個をエピソードとともに書いてみましょう。順番を考えることで、実は必要な設定は7個で足りることに気付くかもしれません。漠然とした世界観からではなく、主人公を中心に据えた世界からエピソード毎に提示することを意識してみてください。

また、好評につき「第2回キャラ文庫小説大賞」の募集を開始いたします。詳細は新人賞ページをご確認ください。第2回では新たに「ファンタジー部門」「センシティブ部門」を設け、さらに幅広く、奥行きのある物語を募集します!! 誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。


中間選考を通過し、さらにその中でも優秀だった21作品の講評を掲載させていただきます。残念ながら今回は受賞には至りませんでしたが、ぜひ次回作に活かしてください。


「創刊25周年記念キャラ文庫小説大賞」個別講評

「やさしい指先」秋峰まこと

駆け出しの陶芸家と、スランプ中の美大生の年の差BL。文章が柔らかくて読みやすく、丁寧なキャラクター描写にとても好感が持てました。ただ、全体的にぼんやりしていて、印象に残るエピソードがないのが残念。主人公の父親との確執や、それに伴う作品作りへの葛藤、攻のスランプからの脱出があっさりしすぎているように感じました。元カレとの掛け合いや先輩への父性愛など、主人公を取り巻く登場人物たちとの関係性もテンプレの域を出ず、良くも悪くもサラッと読めてしまいます。また、冒頭のワンシーンが雑誌フォーマットで約10P、文庫フォーマットでは約30Pと長いです。物語の導入に情報を詰め込むと、読者はついていけません。すべてを章立てする必要はありませんが、場面転換やシーンの変わり目で行間をあけることを意識するだけで格段に読みやすくなるので、ぜひやってみてください。

「ピンクコーラルの涙」朝海しほ

母親が不倫旅行中に亡くなり、兄と遺品整理をする主人公。手伝いにきた兄の友人の優しい寄り添いに惹かれる一方で、奔放な母親のことを伝えられずにいる苦しさ。そんな揺れ動く主人公の心情が詳細に描かれていて良かったです。ただ、冒頭が説明過多でわかりづらいので、主人公の人物像や人間関係をどのように読者に見せるか、情報の取捨選択が必要です。また母親や家族との不和に重きを置くあまり、恋愛描写が淡泊に感じました。丁寧な心情描写で感情移入はしやすいですが、攻に傾倒していく過程が少し情緒的で雰囲気任せなので、具体的なエピソードが欲しいです。そして地の文が情景豊かに表現しようとするあまりくどくなっているので、描写のメリハリに気を付けましょう。重いテーマを題材にする際は、ことさら読者に共感し楽しんでもらうエンタメ性を意識する必要があります。読者にどこに萌えてほしいのか、客観的に考え次作に取り組んでみてください。

「ツインレイ」天沢千

前世で身分違いの恋に苦しんだ二人が生まれ変わり、再び現世で巡り逢う…。スタンダードな設定ですが、ストーリーラインに無理がなく、自然な文章運びに心地よさを感じます。キャラクターの個性が感じられる会話文にも好感が持てるし、主人公二人の障害となる父親の立ち位置もユニークです。一方で、不必要な視点の入れ替えや、後半の強引な展開が気になります。特に、何の説明もないまま攻の両親と対面させられ、好意を試されるような展開は、とても好きな人の立場に寄り添った愛情のある行為とは思えません。二人の関係性を掘り下げた上で、どうすれば読者が共感できるドラマチックなラストになるか、再考してみてください。加えて、キャラクターの作り込みが甘く、魅力に乏しい印象です。前世と現世で二人の立場に変化を出すなど、生まれ変わりものならではの創意工夫があると、なお良かったと思います。

「雪王子と泣かない薬屋の解呪」糸文かろ

流した涙の滴が凝固し、宝石のように輝く「ラクリマの民」をめぐるファンタジー。二人がゆっくりと心を通わせる中で、王子の呪いや国の問題が明らかになり、その解決が恋愛の成就と嚙み合っていて胸打たれました。ただ、「一級品の涙」をキーワードにするのであれば、主人公の出自がわかった段階で、攻を助けるためにまず自分が泣いてみようとなぜ思わないのか疑問が残ります。キャラクターの感情よりも、最初に決めた設定やストーリーを優先するプロット書きになってしまっている印象を受けました。また、視点が交互で書かれているため恋愛面でのドキドキがなく、読者にとってお互いの気持ちがわかっているうえで告白しても盛り上がりません。設定にオリジナリティもありとても面白かったので、次は視点を主人公に絞って感情移入させることを意識して書いてみてほしいと思います。

「人喰鬼の花嫁」うららかりんこ

人喰い鬼×贄として育てられた青年、という王道な組み合わせに加え、受・攻共に非常に好感の持てる作品でした。そんな主役の二人には実は悲しい因縁があり、それが国の在り方を見つめなおす展開に繋がっていくドキドキ感も面白かったです。一方、二人の島暮らしが丁寧すぎて、肝心な気持ちの変化まで緩やかでは飽きてしまう。スパダリ感満載の攻は魅力的ですが、贄として犠牲になることだけを考えて生きてきた受の価値観を覆すほど印象的なエピソードは残念ながらありません。1シーンごとに明確なテーマを置いて、話の構成にメリハリを持たせてほしいです。また、オメガバースをアレンジした要素は面白いですが、ラブシーンを入れるため以上の必要性を感じませんでした。壮大な世界観だからこそ、設定の穴をできるだけ無くし、主人公の心情に迫った作品作りを目指してください。

「ムスカリをまどろみに」嘉屋有栖

タイムリープものと言えば「主人公が誰かのために時間軸を移動するもの」というのが定番ですが、今作は受視点での物語ながら、念願叶って付き合えた攻が実はタイムリープをしていた、という着想が良かったです。ただ、攻からタイムリープの事実を聞くまで、普通の恋人同士の日常が続いていきます。お話の主軸がどこにあって、何を読ませたいのかが見えてこず、前半は冗長に感じました。タイムリープの事実を隠しつつ受の死を避けるために行動する攻に対して、受はもっと違和感を持つはずです。せっかくどんでん返しが待っている作品なので、前半に伏線を散りばめていく構成にしたほうがより物語に引き込めたと思います。視点となった人物が語らないと、読者には情報として何も入ってきません。主人公が起きている出来事をきちんと観察し、何を考えているのかを意識して、もっと主人公視点に寄った文章を心がけましょう。

「ゼロのシリウス」久保木りつ

誰もが魔力を持った世界で一人だけ魔力がない主人公と、魔力過多で力を持て余した攻が、国内で起こる事件に巻き込まれる――作りこまれた世界観と、恋愛と事件を絡めた構成にオリジナリティを感じました。ただ、序盤は世界観の説明と事件についての伏線を張り巡らすことを意識しすぎて、物語に入るまでに苦労しました。傍点を使うことでその文言の印象付けもできますが、あまりにも多用しすぎるとノイズになってしまいます。回想も何度も入ってくるため、読者が作中で起こった出来事について一つ一つ整理する必要が出てきます。時間軸の整理と事件についての情報開示の順番を今一度考えてみてください。また、情景描写は丁寧でしたが、その反面主人公の心情描写が弱く感じられました。攻に対してと自身の特殊な性質についてどう思っているのか、物語を進めていく中で核となる部分だけでも、序盤からきちんと明示していたほうが良かったと思います。

「ガイズ・イン・ザ・フィッシュボウル」蔵雲ヨウ

アンガーマネジメント治療中の25歳攻と、DVで視力を失った48歳の受。心に傷を負った二人が、互いの事情を知らずに惹かれあう――。万人受けする設定ではありませんが、痛みと実直に向き合った再起の物語は、没入感が高く引き込まれました。アメリカを舞台にした作品ならではの軽快な会話も魅力的です。その一方で、主人公二人の抱える過去や問題がそれぞれに複雑で、読者に伝わりづらい印象を受けます。この作品を通して一番描きたいことは何か、まずは主軸を固め、テーマを絞って書いてみてください。構成面では、視点が頻繁に入れ替わるため、感情移入しづらく感じます。重いテーマを扱うからこそ視点を固定し、読者が共感しやすいキャラクター作りを意識してみてください。特に受は48歳という年齢にしては、話し方が幼い印象を受けるので、せめて30代にするなど、読者が入りやすい人物設定に見直してみましょう。

「初恋と最愛の記憶」小波ほたる

記憶と感情を定量化した「メモリ」と「フォーマット」――それらをめぐる高校生たちの恋と再会を描いた一作。文章は読みやすく、相手の記憶を失った主人公が再会を経て結ばれるという王道の展開は好感が持てます。ただファンタジーというよりはSF要素が強く、冒頭では用語の説明に多くの文量を割いているものの、「メモリが容量を超えると死ぬ」というルールの基準が曖昧で、物語に必要な情報が提示されないため、読者の理解と共感を得られない懸念があります。世界観の設定先行ではなく、主人公のテーマを主軸に据えた、読者を意識した作品作りを心掛けてください。また、攻に自分を覚えていてほしいという受の感情と、再会して記憶を手探りで手繰り寄せていく展開が会話メインで行われるので、心情が動く上での説得力が弱いです。具体的なエピソードを重ねていけば、読者がもっとキャラクターに寄り添うことができる、深みのある作品になるはずです。

「その感情を恋と呼べ」設楽ひえん

努力型の秀才と、感覚型の天才な二人が書道を通じて抱く、互いへの葛藤と執着を描いた一作。絵画や音楽ではなく、書道を選んだことがオリジナリティを感じる一方で、少々地味な印象は拭えません。とはいえ、痛いくらいの感情を浴びて圧倒された部分もありました。ただ、攻が抱く受への劣等感を冒頭で語らせてしまったが故に、受のテーマが霞んでしまったように感じました。感情を軸にするのであれば、視点は一人に絞った方が読者は感情移入しやすいです。主人公である受の言動、ほぼすべてが攻ありきになっている上、世界に二人しかいないので、彼の人生に厚みが出てきません。生きた人間を書くのであれば、第三者との関わりなどもきちんと描いて、一人一人のバックグラウンドを掘り下げてください。それがないと、読後感は「なんとなくいい話だったな」で終わってしまうと思います。

「恋知らずの龍人は初恋にその身を捧ぐ」四宮薬子

竜人+皇太子と文官+オメガバース風味と、華やかな世界観ながら、「恋とは命がけでするもの」という実直なテーマが大変面白かったです。設定の一つ一つはユニークなので、序盤に世界設定をきちんと説明してもらえたら、もっと楽しく読めたように思います。後出し情報が多い上に、言葉選びやキャラクターの口調が時代背景と合っていないため没入感に欠けます。代筆を通して、交わるはずのない身分差の二人が心を通わせていく流れも作りとしては自然だと思いますが、語り手が主人公ではなく神視点なので、終始淡白な印象でした。二人が惹かれ合う具体的なエピソードがなかったのも相まって、作中でテーマを感じられなかったのが残念。また、冒頭にクライマックスを持ってくる構成は、いざそのシーンが描かれても、余程の演出が為されない限り予定調和で終わるのであまりおすすめしません。

「愛しき魔法人形の夢と目覚め 」 瀬々らぎ凛

自分が作った人形を愛してしまった大魔術師の受という興味を惹く設定、また最終的に国の革命へと繋がっていく壮大な流れが独創的でとても面白かったです。人間と人形という、相容れない二人の種族を超えたふれあいや葛藤が丁寧に描かれていました。ただ、物語の土台である魔法人形や大魔術師の設定があやふやだったので、キャラクターや世界観はプロットの段階でもっと作り込んだほうが良いです。また、書き方が感情メインの感覚的なものなので、エピソードが雰囲気に流されている感じが否めません。大きな出来事が起きているのに、キャラの心情が入っていないので共感できず、神視点で眺めているだけになってしまっているのが残念でした。キャラ萌えして書いているのはすごく伝わってくるので、もう少し起承転結を意識して、かつメイン視点である受のテーマを中心に据えて書いてみてください。

嘘つきの魔術師ギイの3つの約束」相田翠

本当は男なのに、周囲から女性に見えてしまう「呪い」を解きたい――解呪師を探すため魔術特区で囚人の監視役を任された主人公が、囚人である攻の罪を晴らすとともに自身にかかった呪いを解く。作りこまれた世界観や脇役含めたキャラクターの設定、受と攻の関係性は面白く読めました。会話も軽快で生き生きしており、作風に合っていたかと思います。ただ、肝心の「女性に見える」呪いの大変さが冒頭のエピソードでは見えてこないため、なんとしてでも解呪したいという主人公の切迫感が伝わらず、物語に入り込みにくかったです。もっと主人公自身が核となる、読者の共感性が高いエピソードをテーマに据えてみてはいかがでしょうか。また、視点が頻繁に交互するため、せっかく攻が姿を偽っているのに読者にはそれがすべてわかってしまい、面白さが半減していました。視点を一人の人物に統一させた上で、情報の整理を行いましょう。

「泣き屋と番犬」タカツ己詩

潜入捜査官が”泣き屋”の青年に出会い、連続殺人事件を追っていく――絡み合う過去やサイコパスの犯人など、複雑な設定を物語に落とし込もうとする点が評価できる作品です。その一方で、真実に直面するクライマックスや、お互いの正体をバラしてのやり取りなど、本来盛り上がるべきところにメリハリがないのが残念です。ひとえに書き方の問題で、このような物語は極力一人の視点で謎解き風にした方が、読者は臨場感やスリルを味わえて奥行きが出てきます。神視点だと感情が乗らず淡々と進むので、大きな展開を迎えたシーンでも読み飛ばしてしまいます。もっと地の文を三人称キャラ視点にしてみましょう。そうすることで読者はキャラクターに感情移入し、物語への没入感がでます。また、恋愛感情も二人の気持ちが双方で描かれており、読者のドキドキ感は半減します。次作では視点の統一を意識してみてください。

「月の婚約者」多岐川あきら

絵描きの卵としての主人公の悩みや葛藤がとても深みのある表現で描写され、読んでいて引き込まれます。攻が受に惹かれていく過程も丁寧で、ピカソのデッサンのエピソードがとても良かったです。ただ、地の文が多く全体的に硬い印象を受けました。ラブシーンは会話が少なく淡々としていたので、もっと二人が盛り上がる情緒的な雰囲気がほしいです。またストーリーありきで進んでいくので、主人公のキャラが立っているようで立っていない点が残念でした。二人の喋り方に差異がなかったので、会話の中にも二人の人間性・性格を出す工夫をしてみましょう。また、プロット通りに物語を進めている印象で、キャラの心情や行動に説得力がないように感じました。父と友人、身近な二人の死という重いエピソードが、単なる物語の彩りになってはいけません。エピソードをキャラクターの変化・成長と深くリンクさせることをぜひ意識してください。

「世界がきれいだということを。」柮火おと

仕事のミスでエリート街道から外れた元潜水艦乗りの海自自衛官と、家族について心に傷を持つヤクザ――。一見接点のない二人の組み合わせに意外性があって良かったです。ただ、初対面のヤクザから家を借りるという冒頭の出会いが、キャッチーさ優先でキャラクターの性格を無視しているように見えました。自衛官という堅い職業なのに、感情に流されがちな人物という印象を受けてしまいます。こういう背景を持つ人物ならどういうことを考えて、どういう行動を取るのかをもっと意識して、キャラクターを掘り下げてみましょう。ラストシーンも攻視点にスライドしてしまっていたので、誰の何の話だったのかがぼやけてしまいました。また、一つ一つの台詞が長くなりがちなところも気になりました。せっかく決め台詞を言わせても、10行もの長文の中では埋もれてしまいます。きちんと印象に残すために、視覚的にも読みやすい文章を工夫してみましょう。

「魔術師と雪の使い魔」長朔みかげ

人間たちの見世物として飼われていた聖獣グリフォンの主人公が、攻の大魔術師に助けられ心を少しずつ開いていく。その後順調に結ばれるかと思いきや、攻が抱えるトラウマのせいですれ違う、という展開に引き込まれました。ただ、設定ものとしては作り込みが足りず、貴重なグリフォンであることの長所や短所という人間との差別化ができていないので、今のままだと可愛いペットになってしまいます。また、受の不思議な運命に感情移入してハラハラドキドキしたいのに、展開が他力本願で受が自ら動かず、物語全体を通して振り回されている印象を受けます。問題提起がなされないままラストを迎えるので、恋愛が成就してもカタルシスが感じられません。主人公に消化すべきテーマや変化を持たせないと中だるみしてしまうので、次回はぜひ物語の主軸となるテーマを意識してみてください。

「太陽の王は水の底に睡る」猫森千世

灼熱の砂漠を統治する王と、ふたなりの雨巫子――そんな運命的な出会いを果たした二人が惹かれ合い、永遠に繋がる様子が力強く描かれ、独特な着想に引き込まれました。特殊な設定なので読者を選びそうではありますが、読みやすい文章でしっかり書けていて世界観に説得力があります。一方で、無意識下の受を無理やり襲うエピソードに共感しづらく、倫理的にやりすぎ感も否めません。また、王である攻の喋り方から威厳が伝わってこず、キャラぶれを感じました。喋り方はキャラ立ちにおいてとても大事なので、必ず意識するようにしてください。攻と受の交互視点で物語が進み、同じ話を二度読んでいる印象を受けたので、交通整理も必要です。二人が結ばれてからの攻の溺愛化が性急に感じられたので、もう少し葛藤などを入れると物語により緩急が出てくるかと思います。

「俺は貴方に抱かれたい」村嶋優音

同僚と上司への恋心に揺れる、コールセンターを舞台にした三角関係。他人との接触を避けて生きてきた主人公が、人を愛することで変わっていく様子を、丁寧に描いたストーリーに好感が持てます。その一方で、攻への想いを自覚する過程が地の文だけで描かれており、エピソード不足で説得力に欠ける印象です。終盤の攻視点からの気持ちの吐露が、都合のよい解説パートに感じられる点も気になります。別視点を入れる場合は、別キャラで話を進めるような意識で書いてみてください。また、受の容姿など後出しが多いので、必要な情報はなるべく早く出しましょう。キャラ立ちは悪くないですが、キャラ萌えが先行して主人公自身に解消するべきテーマがないように感じます。次作では恋愛とは別に、主人公の人間的成長が感じられるテーマを設定してみてください。描いた先に読者がいることを意識した作品づくりを期待しています。

「お隣さんはヤリたい放題‼」唯一透空

毎週金曜日になると聞こえてくる隣人の情事の声に悩まされるという、わかりやすくて物語に一気に引き込まれるキャッチーな導入でした。主人公である攻のぐるぐるした葛藤が丁寧に描かれていて良かったのですが、恋愛しかしていないので具体的なエピソードに欠けます。受の秘密だけで終盤まで物語をもたせるのは冗長ですし、メリハリがありません。テーマがなくキャラ萌え頼りになっているため、キャラクターが読み手にハマらないと物語に入りづらくなってしまいます。また、二人でいるほとんどの場面が家の中のため、舞台に変化がなく世界が狭い印象を受けます。そのうえ、主人公が大学生なのにその描写が全くなく、バイト先での人間関係もよくわからないので、その人となりが見えてこないのは物語の主役として致命的。もっと生きた人間として書くことを意識すると、自然とキャラクターに深みが出てくると思います。

アンチノミーの愛の撚り糸」佳岡頬

小さな村で養父と暮らす主人公が、ある日怪しげな旅人と出会うことで物語が動き出すファンタジー。ヒトの姿をした”彼虚”という災厄の設定にオリジナリティがあり、養父との別れのシーンでは深い心情描写に胸を打たれました。ただ世界観が壮大な一方で、受に「こうしたい」という目的意識がなくテーマが希薄です。そのため村の子供から始まる冒頭や会話から、物語全体の行き先が分からず冗長に感じてしまいます。災厄に拘わらず平穏に暮らしたいのか、出奔するに至った事件の真相を知りたいのか、受の出発点を決めましょう。また、地の文も神視点で情報過多です。ファンタジーでは世界観の説明が必要ですが、設定や衣食住を細かく描写すれば良いというわけではありません。もっと受視点に寄って情報の取捨選択を意識的に行ってください。一番勿体ないと感じたのは、養父との関係がメインになっていて攻との恋愛が物足りない点です。花の香りで発情するなど外的な要因に頼らず、攻とのエピソードを以て恋愛を描いてほしいです。

※公平を期するため、選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。

創刊25周年記念キャラ文庫小説大賞 中間発表

更新

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」の中間選考が終了し、最終選考に進む作品が決定しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。

厳正な審査の結果、最終選考の候補となったのは以下の56作品です。(※敬称略・50音順)

また、この中から有望な方には、
★担当編集者がつき、次回作をバックアップします。
★編集部から個別に講評をお返しします。

ペンネームタイトル
蒼原玉海軍天使、地に下りて愛を知る
秋峰まことやさしい指先
朝日彗羽線を引くなら越えないで
朝比奈あさひ正隆と由宇
朝海しほピンクコーラルの涙
甘崎禅之助幸福は誰が為に
天沢千ツインレイ
彩乃えんエスプレッソと恋はうんと甘く
あまみや慈雨甘い運命~オメガパティシエは後宮で気高き王に溺愛される~
糸文かろ雪王子と泣かない薬屋の解呪
畝傍画家と平凡
海辺ユジンいつか別の誰かと番う君へ
うららかりんこ人喰鬼の花嫁
嘉屋有栖ムスカリをまどろみに
きなり空に消えたボーダー
草津玲緒傲岸エリートな生き霊は壊滅的なヘタレでした。
久保木りつゼロのシリウス
蔵雲ヨウガイズ・イン・ザ・フィッシュボウル
高月紅葉冬と星のプラットフォーム
九重えな神様と旅する並行世界
小波ほたる初恋と最愛の記憶
古榛都青今日も、おいしいご飯を
咲楽ちらカルーセルロンド
佐藤敬子甘やかすように唇を噛んで
設楽ひえんその感情を恋と呼べ
熾月あおい月下鴛鴦
紫野楓第二王子と孤独な天使
四宮薬子恋知らずの龍人は初恋にその身を捧ぐ
島渚レモンサイダー
しろとくろ宮廷武官とハレムの側妻
鈴木すずめ恋がしたい
須宮りんこ銀狼の愛は輪廻する
瀬川香夜子赤い糸の先に運命はあるか
瀬々らぎ凛愛しき魔法人形の夢と目覚め
芹沢まのLet’s catch up!~その声を追い掛けて~
相田翠嘘つきの魔術師ギイの3つの約束
タカツ己詩泣き屋と番犬
多岐川あきら月の婚約者
ちかし死出は鬼連れ、世は情け
冬真二一シュガーレス・シュガー
兎騎かなで病弱王子は古の宰相様を振り向かせたい
柮火おと世界がきれいだということを。
長朔みかげ魔術師と雪の使い魔
七角けい世界王者とのキスはチョコレートより甘い
鳴海つつけば壊れる
猫森千世太陽の王は水の底に睡る
花柳夏舟光の住処
萬里 一男の俺がこんなにも男性Vライバーを推すのはおかしいだろうか?
藤龍河焔の皇太子と秘密の神子
真魚ゐ散る花びらはいつか僕の手のひらに
神山石榴高楼炎上
村嶋優音俺は貴方に抱かれたい
唯一透空お隣さんはヤリたい放題‼
悠里いつかきっと、恋をする
佳岡頬アンチノミーの愛の撚り糸
路地裏乃猫幸せになるために必要なたった一つの条件


最終選考結果は、6/22(木)発売のChara8月号ならびに公式サイトにて発表いたします。
大賞作品は書籍化or雑誌掲載検討!
引き続き、ご注目ください。

※公平を期するため、選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。