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第2回 キャラ文庫小説大賞 結果発表(総評&個別講評)

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「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」が好評につき開催した、「第2回 キャラ文庫小説大賞」。応募多数の中、深い心理描写とドラマティックな展開が光る3作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「特別な君と普通の恋」野宮まち
≪あらすじ≫
IT企業の営業から、突然システム開発部に異動になった律(りつ)。同じチームになったのは、「天才だけど人付き合いに難あり」と有名なエンジニアの桐生(きりゅう)だ。不愛想で挨拶もろくにせず、同僚からも遠巻きにされている一匹狼。そんな桐生をなぜか放っておけず、サポートに奔走する日々で…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
ブルー・タイム・パラドクス春田梨野
≪あらすじ≫
大学時代の元カレが殺害されてしまった――!! かつて最悪の別れ方をした倫(りん)の死に驚愕するサラリーマンの唯人(ゆいと)。思いを馳せていたその晩、突然何者かに押し入られ、今度は唯人が刺されてしまう。ところが、目覚めるとなぜか大学生に戻っていた!! やり直せるならもうあんな苦しい恋はしたくない、と倫と関わらない決意をするけれど…!?

【期待賞】賞金5万円 担当編集決定!!
「海の底で夜は明ける」椋木鳴

≪あらすじ≫
演技仕事が多いせいで俳優に間違われる芸人の七崎(ななさき)。5年前に事故で亡くした想い人で相方とのコンビ名を残すため、どんな仕事でも引き受けている。そんな多忙の中、唯一の癒しは近所の喫茶店店員・深海(ふかうみ)だ。芸人時代からのファンだと七崎を心配してくる深海に、ある日「料理の作り置きをさせてくれないか」と頼まれ…!?

※受賞した3作の講評はChara8月号(6/21(金)発売)に掲載しております

【総評】

 「第2回 キャラ文庫小説大賞」にご応募いただきありがとうございました。深い心理描写が胸を刺す現代ものや、華やかでドラマティックなファンタジー作品など、前回を超える応募数にみなさんの熱量を感じることができました。
 けれど、今回は「ファンタジー部門」「センシティブ部門」というジャンルを設けた結果、部門名に影響を受けすぎた作品も多々見受けられました。例えばファンタジー部門では複雑な設定で読者を置いてけぼりに。センシティブ部門では起承転結が弱く、辻褄はあっているけれど目新しくない既視感のある展開などがありました。
 だからといって「奇抜なアイデア」「独創的な設定」「読者受けの良いキャラ」を考えてほしいというわけではありません。読みやすい文体やすんなり頭の中に思い浮かぶ描写、人物像など、読者に届けるためには「どう伝えるか」という『技術』が必要です。
 アイデアや設定、キャラクターは作品ごとに変えることができますが、文章そのものは自分では意識しにくいです。それを踏まえて下記3つの点に留意して、ぜひ次作の糧にしてみてください。


①「三人称主人公視点」で書いてみましょう

 今回は、前回の総評でお伝えした「主人公視点への統一」を意識した作品が増え、物語への没入感を感じることができました。その一方で、地の文が神視点(俯瞰的)な作品も多く、主人公の心情がわかりにくかったです。読者に感情移入させるために、まずは三人称主人公視点にすることを意識してみてください。そうすると主人公が見たもの感じたものが地の文に溶け込み、自然と感情に寄り添った表現になります。以下のように文末ひとつとっても主人公の感情に差が出てきます。
 例)
 神視点の場合
 ・「攻が声をかけてきた。」→客観的な事実
 三人称主人公視点の場合
 ・「攻が声をかけてくれた。」→喜びや期待
 ・「攻に声をかけられてしまった。」→嫌悪感や困惑

 他にも、応募フォーマット3段1Pすべてが地の文になっていたら要注意です。俯瞰的な事実を淡々と書き連ねるだけでは読者は疲れて、いくら大事なことを書いても読み落としてしまいます。まずは三人称主人公視点に絞った上で、エピソードか会話にするか、そもそもすべての情報を一気に説明する必要があるのか改めて考えてみましょう。地の文が2段を超えてきたらセルフチェックしてみてください。


②主人公の内面の変化を描きましょう

 今回ファンタジー部門では「世界観や設定に巻き込まれるだけで主人公自身の成長を感じられない」、センシティブ部門では「特に主人公が行動せず、相手からのアプローチによって両想いになるだけ」といった作品が多く見受けられました。
 読者があなたの作品を読み終わった時に、どんな読後感を得るか想像しながら書いていますか? 話の辻褄があっているだけでは感動は生まれませんし、恋愛が成就することはBL読者にとっては当たり前で予定調和です。例えば人間不信で周囲を拒絶してきた主人公が、相手との関係を築く中で信頼し合う喜びに気付いていく、というような、恋愛成就に加えて「主人公自身の内面の変化」を意識してみてください。
 またBLでは受・攻という二人がメインに見えてしまいますが、小説における物語の主人公は基本的に1人です。相手との恋愛を通して主人公の考え方や生き方がどう変わっているか、物語の始めと終わりの変化の幅が大きければ大きいほど、読者の読み応えや満足度につながっていきます。


③シーンの始めには5W1H、主人公の感情の立ち位置を書く

 映画の場面転換を想像してみてください。最初に場所、時間(昼夜・季節など)、その場面の登場人物が1秒で観ている人に伝わります。しかし小説は映像ではないので一瞬で伝えることはできません。
 今回の応募作では1ページ読み進めた後に回想だとわかったり、前のシーンからどのくらい時間が経っているのかわかるようでわからず、状況を把握するのに苦労する作品もありました。
 文章でわかりやすく伝えるために、シーン始めに「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうやって」という5W1Hを書いてみましょう。主人公がどんな感情でその場面にいるのかも入れてみてください。例えば、前のシーンで片想いの相手に告白された場合、次のシーンがその日の夜なら嬉しさや興奮でいっぱいかもしれないですし、1週間経っても会えていなかったら相手からの好意を疑いだすかもしれません。
 ぜひたくさんのキャラ文庫の作品を読んで、冒頭やシーン変えでどのように表現されているか着目してみてください。説明的になりすぎず、さりげなく描写されていることに気付くと思います。

また、好評につき「第3回 キャラ文庫小説大賞」の募集を開始いたします。詳細は新人賞ページをご確認ください。誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。


中間選考を通過した中から、22作品の講評を掲載させていただきます。残念ながら今回は受賞には至りませんでしたが、ぜひ次回作に活かしてください。


「第2回キャラ文庫小説大賞」個別講評

ファンタジー部門

「孤独な魔王と人質の花嫁」青木なつき

 兄王子のスペアでしかない自分に虚しさを抱き、自らの意思で騎士団に所属する第二王子。ところが城が魔族に襲撃され、受は魔王の花嫁に差し出されることになってしまう。しかもその魔王が実はルームメイト兼親友で!? という導入がキャッチーで、楽しく読み始めることができました。脇キャラも個性豊かで、悲惨な運命を背負わされる主人公とは裏腹に、軽い文体で両片想いを描けていると思います。
 読み進めるごとにどんどん文章がノッていて、作者自身も楽しく書いている様子が伝わり好感が持てますが、思いつくままに書いている印象も拭えません。それゆえに、終盤で唐突に政治劇が始まったかと思えば、会話のみで協定が結ばれる超展開に、置いてけぼりにされてしまいました。孤独を抱えた者同士の救済と、異種族が暮らす国同士の雪解け、どちらも中途半端で、何を伝えたいお話なのかが不鮮明です。主人公が幸せになれてよかった、と共感できなければすべてが都合のいい話で終わってしまうので、もっと主人公を中心に据えた物語づくりを目指してください。

「月のオメガはアンドロイド侯爵の夢を見るか」雨井湖音

 ディストピアSF×オメガバース。大戦後、アルファだけが残った地球での生存戦略として、地球外に追いやられたオメガを攫う…という導入は面白いと思いました。その反面、AIに支配された地球人対、反AIの月面人という対立関係が判明しお話は複雑化するのに、肝心な主人公にテーマがありません。受自身がどんな人物で何をしたいのかがよくわからないので、物語のゴールも見えないまま、難解な話が展開されている印象でした。
 このページ数でこの設定を書き上げた筆力は単純にすごいですし、世界観に合った三人称主人公視点の文体で読みやすかったです。ただ主人公の性格出しと、月の文化レベルが大戦前と同等であることや、月面人(=主人公)が想像している地球の文化レベルを冒頭でエピソードとして明示すべきです。そうでないと主人公の心情に共感できず、情報・設定が積み重なっていくばかりで、物語としての面白さが半減されてしまいます。BL小説はあくまでラブストーリーです。どんなキャラクターがどんな恋をするのかという、読者が求める根幹部分を忘れないでいてください。

「傷の聖騎士」甘崎禅之助

 悪魔退治を生業とする聖騎士を目指す主人公が、上級騎士の攻の元で成長していくファンタジー。主人公視点で書くことが意識されていて、前作の戦後を舞台にしたお話から格段に読みやすくなっていました。
 悪魔関連の語彙や詠唱を使った戦闘シーン等、世界観を作りこもうとする意欲は見られたのですが、様々な概念の説明がないまま進んでいくのが気になりました。読み手の知識に頼る書き方は、読者をふるいにかけ限定してしまいます。どれだけ自分の頭の中で世界が広がっていたとしても、読者にとっては初めましてのキャラクター・世界観です。理解と共感を得られなければ、効果は半減します。
 また文章が淡泊で、心情描写が薄く感じました。そのため、聖騎士を目指す具体的な理由や、攻が主人公を騎士にしたくない理由が判明した場面の掘り下げがない等、全体的に盛り上がりに欠けます。どれだけ呪文や戦いを描いても、肝心の恋愛の過程にワクワクしなければ逆に読み飛ばされるパートになるので、キャラクターを掘り下げつつ、読者に寄り沿う書き方を心がけてください。

「魔法のランプと恋のレガート」遠間千早

 精霊への謁見を目指す旅人の攻と、攻に拾われたランプに宿る火の精霊が主人公の冒険譚。基本的には主人公の視点になっているものの、書き方が神視点なので地の文が多く、ページが進むわりには物語がなかなか始まらず冗長に感じました。また作中用語の「ジン」という主人公の種族の説明がないまま話が進むので、作品の世界観がよくわからず少し戸惑いました。
 主人公のキャラクターもかわいらしく、設定自体は面白いのですが、出会いから理由もなく溺愛に近いので関係性の発展も弱く、感情移入した書き方ができていないのでダイナミックなクライマックスや感情が引き起こす紆余曲折が描けないのがもったいないです。ラストは、なんらかの理由で謁見に間に合う、または精霊の計らいで謁見⇨選ばれて断る、という流れの方が盛り上がると思います。最初にプロットをきちんと作り、この展開は盛り上がるかどうかを考え、それが読み手の期待を上手く裏切る、または予想以上に応える、のどちらになっているのか推敲してください。

「当方天才魔術師、推しを王にしたら、次は俺の子を孕む薬を作れと言われました。」櫻坂とおこ

 魔術師の主人公が昔馴染みの王に命じられ作った「男体妊娠薬」をめぐるファンタジー。天才故に傍若無人で精神的に未熟な魔術師が、王となった攻の重い愛に気づくという主人公の心情の変化が描かれていた一作でした。
 テーマが明確で主人公の成長もわかりやすい一方で、主人公が感情的に動いた結果、世界観や設定が後付けされるので理解するのに苦労しました。ファンタジーは感情描写だけでは最後まで読者を飽かさず引っ張ることはできません。他にも本来エピソードにした方が説得力が増す部分が、地の文でさらっと書かれていたところもありました。どのエピソードでどの情報を出すか精査することで、もっと読み応えのある作品になると思います。
 また、神視点と主人公視点が入り混じっていたり、地の文をさらに括弧で補足したりと文体が感覚的です。そのせいか一国の王と強い力を持つ魔術師という責任のある立場の人間なのに、全体的に軽い印象を受けます。三人称主人公視点に寄せることで、目の前の問題が自分事になり、文体にも一貫性と読みやすさがでるので意識してみてください。

「最後の愛の記憶(メモリ)」小波ほたる

 人間が持てる感情と記憶には容量があり、限界に達すると死ぬ――その容量を増やすための手術開発に携わる研究者達の物語に、熱く心を打たれました。前回の講評を受けて、読みやすくしようとする工夫が伝わってきました。
 その一方で、地の文が硬くて三人称神視点に近い印象を受けます。また、世界観の設定や説明がまだ曖昧で理解しづらい点が多いです。独自の世界観は、読者にとって当たり前のものではありません。地の文で世界観を説明するだけでは感情移入しづらいので、誰かの感情に乗せた説明が必要になります。例えば、突然変異が起こった5-60年前当時の人々はどういう反応をしたのか。主人公は、この世界に対してどういう感情を抱いているのか。そこを軸にすることで、エピソードや展開が変わってくるはずです。
 また世界観に重きを置きすぎるあまり、なぜこの人を好きになったのかというエピソードが希薄で、なんとなく惹かれているという程度の印象しか持てませんでした。次作はぜひ、主人公の内面の変化を最優先にしてお話を作ってみてください。

「アンドロイドの吐息は濁らない」設楽ひえん

 アンドロイドが働く近未来。職にあぶれた主人公がアンドロイドだと偽り、攻が支配人のホテルに勤め始めるが…!? 受視点に統一された文章が読みやすく、アイデアも個性的で面白いと思います。
 けれど、主人公の人間らしい行動を、攻や客がまったく疑っていないことがとても不自然です。読み手に違和感を持たれないよう、世界観やルール設定をもっとしっかりと練りましょう。また、前作で指摘した「二人だけの世界」を脱しようと第三者を登場させたことは評価できますが、お話に影響を及ぼす働きをしているわけではないので、名前のあるモブの域を出ていません。
 主人公にもお金稼ぎ以外の目的やテーマがなく、家庭の事情も冒頭に出てきたきりなので、なんのために働くのか共感しづらいです。例えば、「人間ならではのサービスを目指す」とか、「兄弟の学費を稼がないといけない」などの具体的な目的があれば働く理由になりますが、働きたいからという漠然とした理由では説得力に欠けます。主人公のバックボーンを深掘り、明確なテーマを持たせることで、よりドラマティックなエピソードが生まれるはずです。

「星墜ちるころ」相田翆

 目覚めたら記憶を失っていた上、身内に暗殺されかけている。そんな伯爵令息の主人公が逃げ込んだ騎士団には「貴方が嫌いです」と言って辞職した侍従がいた――。設定のアイデアや着想にオリジナリティを感じ、キャラクター同士の会話も軽快で一気に物語に引き込まれました。
 ただ、主人公の目的意識がぼんやりしているせいで、「失った記憶を取り戻す話」なのか、「不治の病を治す話」なのか、「敷かれたレールから外れ、自分にしかなれないものを探す話」なのか、物語の方向性が二転三転したように感じます。主人公が記憶をなくした理由も書かれておらず、記憶の取り戻し方にも法則性がありません。全体的にプロット通りに都合よくエピソードを作っている印象だったので、まずは主人公がどういう風に成長する話なのか、プロットの段階から一本のシンプルな軸を作りましょう。
 前作に比べ視点の統一はできていたので、次は三人称主人公視点にもチャレンジしてみましょう。壮大なファンタジーである一方で後出し設定が多く見受けられたので、読者が世界観を思い描けるように情報の整理をしてください。

「初心なヴァルキューレは悪神に惑う」長朔みかげ

 前世であるヴァルキューレの使命に揺れる一方で、罪悪感を抱えながらも恋に憧れる主人公が、前世で敵対していた悪神ロキと再会するファンタジー。北欧神話をベースにした世界観に転生ものの要素が加わり、キャッチーで楽しく拝読しました。
 一方で、三人称神視点の地の文の硬さと、キャラクターの軽快な話し方がミスマッチで没入感に欠けます。加えて、設定の作りこみも甘く、キャラクターの前世が神である意味や、神話を活かした展開が希薄で、勢いまかせな印象です。悪逆非道な前世を持つ攻が、終始軽く都合のいい存在に描かれており違和感を覚えます。
 また、主人公のテーマが「使命を全うすること」なのか「ヴァルキューレの檻から抜け出すこと」なのかが曖昧で、結果として物語に流されているように感じました。主人公の目的意識が見えなければ、物語を通しての変化が感じられず、恋愛成就にも納得感が得られません。まずは、主人公のテーマを明確にすることを意識してみてください。

「青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ」葉咲透織

 憧れの人間世界に召喚された、できそこないの火の精霊――けれど水の精霊と勘違いされたまま、攻である御巫との交流が始まる、というキャッチーな冒頭に引き込まれました。実は二人は過去に出会っていたり、陰謀や戦争が絡んでいたりと、ドキドキさせられるエピソードもたくさんありました。
 ただし、主人公に明確な目的があるようでないので、なりゆきで物語が進んでいく印象を受けます。「人間界に行きたい」も主人公の目的の一つですが、人間界に召喚された時点でそれは叶ってしまいます。早々に目的が達成されると、その後の展開をどういう指針で読めば良いのか、読者が迷子になりかねません。
 そのため、主人公の自身に対する感情の出発点が冒頭に欲しいです。「できそこないのままでいい」のか、「精霊としての役割を果たしたい」のか。そして物語が終わった時に、それがどう変化していたか。軸ができれば、キャラにも一貫性が増し、物語にもより深みが出るかと思います。設定の着眼点はとても面白いので、次作はぜひ「物語を通して解決したい主人公の感情の出発点」を意識してみてください。

「悪魔が棲む町~引きこもり精霊、夜烏と出会う~」藤多畑

 悪魔だけを斬る剣に宿る精霊と契約依頼をしに来た精霊士が、悪魔が関わる連続殺人事件を追う――。無垢で世間知らずな受の精霊と、悪い大人な人間の攻の組み合わせや、二人の会話・掛け合いのテンポがよく面白く読めました。
 その反面、攻は受に対して最初横柄な態度をとっていたはずが、いつの間にか受を溺愛していた印象です。何がきっかけで恋に落ちたのか理由が弱く、気持ちの変化がわかりづらいです。また、前作より地の文は減っていましたが、それでもまだ説明過多で冗長に感じました。短いシーンの中にも何を伝えたいのかテーマが必要です。全体で見ると、攻が殺人事件を解決するために受を探していたのに、世界観や契約者の説明が続き、事件解決のために動き出すまでが長いです。突然二人の距離が縮まり、事件も犯人の予想がつきやすい謎解きだけのあっさりとした内容に感じました。
 二人が事件を通して成長し、恋愛面でも距離を縮める様子を描くことを意識してみてください。キャラクターの好感度は高いので、世界観と設定を活かしたエピソードが作れればぐっと読み応えが増すと思います。

「あのメロディの舞台裏」森洲うらら

 「なりたいものになれ」と両親に言われて育ったのになりたい職業も見つからず、学校でもモブ扱いの主人公が転移したのは、好きなゲームの世界。流行りの異世界転移ものでありつつも、主人公がなるのは勇者でも騎士でもなく、宿屋の『笛吹き』という意外性が面白かったです。
 三人称主人公視点に統一された文章で、主人公のテーマもはっきりしていたのは良かったですが、もう1本の応募作とテーマや攻を好きだと気付く展開等、全体的に似通っているように感じました。物語としての起承転結が弱く、せっかくの設定を活かしきれないのはもったいないです。インプットを増やし、地の文で心情の変化を描くだけでなく、もっとエピソードを練って物語を作っていくよう意識してみてください。
 また掲げたテーマに対して、恋愛以外の部分で主人公がどういう気づきを得て、どんな行動を取るのかという結論がないとぼんやりしたラストになってしまいます。主人公の成長に加えて、実は第四王子だったという宿屋主人の攻にも、序盤との変化が見えるとさらに深みのある作品になるはずです。


センシティブ部門

「Lies to you」朝海しほ

 ケガで現役引退した陸上選手が、建築家を目指す高校時代の同級生と再会し再起する物語。三人称主人公視点で書かれていて、キャラも共感しやすく読みやすかったです。
 その一方で、全体的に会話劇で物事が進んでいっているように思えます。前作もですが、物語の進め方として、サブキャラが喋る→受けが思考→次に攻めと会話→行き詰まったらサブキャラと会話、という流れなのでドラマにメリハリがなく、主人公が変化し成長している様子がみられません。会話だけでドラマティックさを演出することは難しいです。
 嘘つきで損をしている人を主人公にするのなら、攻との再会や仕事を通して正直に行動できるようにならないと、冒頭の幼稚園のエピソードがどこにも繋がらないラストになってしまいます。このお話は、選手として跳べなくなった自分をどう受け入れ、恋と仕事を通じていかに成長していくかという主人公の物語です。BLなので恋愛を描くのはもちろんですが、それ以外のテーマをしっかりと描くことで読者の心をより掴めると思います。

「父の恋人」緒川ゆい

 自由奔放で家族を捨てた父親の葬儀で出会った父の恋人は、若く美しい男だった――。印象的な冒頭から始まり、恋愛を通して主人公の父に対する確執が解けていく様子がしっかり描かれていました。
 三人称主人公視点の読みやすい文章で進む一方で、中盤で明かされた受の過去が特に伏線がなかったため唐突に感じられました。また、主人公の抱える葛藤が「父親の恋人を好きになったこと」なのか「元犯罪者の息子を好きになったこと」なのか、渾然一体となっていたように思えます。
 攻の弟を庇い受が刺されるラストも、絵としてはわかりやすい山場であり事件としても派手ですが、主人公である攻自身に特に関係がなく、この物語のクライマックスとしてはとても散漫に感じられました。主人公が掲げたテーマにじっくりと向き合い、どういったエピソードがあれば冒頭との変化を出せるかをもっと考えてみましょう。また、心情が変化した結果主人公がどういう行動に移すかを描くことで、読み応えにも繋がります。

「あと五分が待てなかった。」熾月あおい

 周囲からは合格確実と思われていたのに、高校受験の結果は不合格――。気に食わない塾講師への腹いせに、答案を白紙で出した主人公。人生を棒に振ったその後から始まる再生の物語に、一気に引き込まれました。
 前作とは異なるジャンルに挑戦する姿勢にも好感が持てます。また、作中に散りばめられた文学のたとえ話や蘊蓄から、作者が小説を読み込んでいることが窺え、構成やアイデアにも工夫が見られます。
 その一方で、地の文が冗長で、小説というにはあと一歩物足りない印象です。例えば、途中で登場したキャラクターが、あまり交流を深めることなく死んでも、エピソードが少なければ読者には刺さりません。読者を主人公の視点に引き込んで感情移入させてからなら、共通の知人の死を乗り越えてハッピーエンドに至るまで、もっとドラマティックに盛り上げることができたはず。エンタメとして、読者が読むことを想定し、物語を膨らませてみてください。そのためには、主人公がこの物語を通してどのように成長(変化)するのか、起承転結をプロットの段階でもっと作り込んでみましょう。

「彼の『愛してる』は他人のもの」須宮りんこ

 主人公は、 “声”を武器に生計を立てている動画配信者という今どきのキャラクター。恋人を亡くした攻からの依頼で、亡き恋人の声真似をするうち、一途な彼に惹かれていくストーリーが繊細に描かれていました。
 柔らかく読みやすい文章ですが、大きな山場もなく、「故人を想い続ける相手に片想いする」という切ない雰囲気頼りになってしまっているのが惜しいところ。前作には、転生という“色”がありましたが、センシティブ一本だとよりその印象が顕著でした。痛々しい疑似恋愛で読み手の胸を衝くことはできても、なぜそうまでして関わりを持とうとするのか、主人公の意図がわからずでは、たとえ過去を乗り越えて想いを成就させても大きな感動にはなりえません。何より、一途である攻が、受から提案された疑似恋愛を受け入れたのはなぜですか?
 相手を救うことで自分も救われるという、王道な道筋がある分、勝負するポイントは登場人物の心情変化にかかっていると言っても過言ではありません。より共感性が高く、設定にオリジナリティのあるキャラクターになっているか見返してみてください。

「別れさせ屋と冥婚の伴侶」タカツ四季

 亡くなった姉の恋人への片想いに苦しむ主人公。幼馴染みで別れさせ屋の攻に恋心との決別を依頼するが、故郷で冥婚をめぐる殺人事件に巻き込まれていく。恋愛だけではなく事件や設定を入れ、読者を楽しませようとする点は評価できます。
 けれど、設定の説明や事件解決への出来事に多くの分量が割かれており、肝心の主人公の感情描写が希薄です。そのため片想いへの疑問や昇華、攻の献身的な愛に気づくといった主人公の感情の流れが唐突で、気がついたら攻に絆され両想いになっていたように感じました。出来事やエピソード、周囲の行動によって物語を動かすのではなく、主人公の心情を中心に物語を動かしましょう。そうすることで本当にその設定が必要か判断しやすくなると思います。
 また、前作でも殺人事件や特殊な職業が出てきており今作と似た印象です。推理小説なら犯人を特定するのが大事ですが、恋愛小説においてはそれだけでは物足りません。読者を引き込む設定を作ろうとする姿勢はとてもいいので、次作では地の文から主人公の感情に寄せることを意識してみてください。

「君のために出来ること」トオノホカゲ

 元ヤン養護教諭の受と、ろくでもない父と二人暮らしの高校生の攻。愛された経験の乏しい二人が、丁寧に感情を育んでいくところに好感が持てました。読みやすい文体で、受が攻のために自ら行動していく姿勢も良かったです。
 一方で受の言動が年齢の割に幼く、言葉遣いが半端に悪い一面を「元ヤンだから」で済ませているような印象を受けました。また親友のような立ち位置のカウンセラーが、都合よくそばにいて片想いしていたりと、プロット通りの箱書きになっていて説得力が弱いです。途中から攻が受をきっかけなく「千草さん」と下の名前で呼んだり、印象的な登場シーンのない当て馬の生徒が「俺を選んだほうがいい」と告白する等、物語上都合のいいリアリティに欠ける台詞回しが多く感じました。
 自分都合でキャラを動かしても、読者からは共感されづらいです。キャラに寄り添えなければ、いくら辻褄が合っていても読者は感動しません。先生と生徒という関係性をふまえて、その台詞が本当にふさわしいか、キャラの行動は共感できるものかを意識してみてください。

「長恨の雪虫」柮火おと

 自分を裏切った幼馴染みを探すため潜水艦乗りとして働く主人公と、厳しい指導で有名な副長。過去に傷を負った主人公が攻との交流を通して再起に向かう――前作同様、緻密な仕事描写とドラマティックなシーンづくりが巧みで読み応えがありました。課題であった地の文の長さにも改善が見られ、視覚的に読みやすい文章作りができています。
 その一方で、地の文が神視点に近く、主人公に感情移入しづらい印象です。特に冒頭は読者を物語に引き込むための入口です。客観的な事実を書き連ねるのではなく、「主人公が何を思って行動しているか」心情を意識して書いてみてください。
 また前作と同じく、主人公が自衛官であるという設定の偏りが気になります。知識があるからこそ、どの程度現実に即した描写にするか、フィクションとのバランスを見直してみましょう。読者が読み終わった後にどのような感想をもつか考え、カタルシスや恋が成就してよかったなど、満足度の高い読後感を意識してみてください。

「Nude」鈍野世海

 幼い頃、偶然出会った攻に描いた絵を否定され、仄暗い情熱を燃やし美大に進学した主人公。やがて芸能人となった攻と再会し、復讐のためヌードモデルを依頼して…!? 二人の歪んだ感情が複雑に絡み合った再会愛、大変読み応えがありました。地の文が多く少し冗長に感じますが、心情描写を意識的に取り入れている点に好感が持てます。
 その一方で、主人公の絵が嫌いと言って疎遠になってしまう展開は、きっかけとなるエピソードが弱く、説得力に欠ける印象です。主人公に異常なほどの執着を見せる攻が、ここまで再会を引き延ばす理由が感じられません。クライマックスの主人公の才能に嫉妬した同期が、アトリエに火をつけるという展開もありがちで半端に感じられます。物語を盛り上げるために事件ありきで設定を組んでしまうのは、読者の感情を置き去りにしかねません。
 書きたいシーンやセリフの間を地の文で埋めて繋いでいるような印象を受けるので、まずはキャラクターの目的とゴールを明確にし、そのために必要な展開を見直してみましょう。

「食事はひとりで、もしくはきみと」にわのすみ

 「食事はひとりで食べるに限る」をモットーとした主人公が、お一人様不可の店に行くためにSNSで出会った攻と食事に行く――。着想として現代的な導入や、攻の「フードコーディネーター」という専門的な職業に、知識欲を刺激されました。
 文章も丁寧な三人称主人公視点で読みやすくはありましたが、地の文で最後まで攻のことを「サキさん」と呼んでいたのが気になります。主人公視点と一人称は似て非なるものなので、意識してください。
 また、人付き合いが苦手という設定なのに、些細なことで仲違いをし、攻の実家の青森まで追いかける行動力に違和感がありました。キャラクターに合わせた展開というよりも、ストーリーを成立させるためのエピソードに思えます。ラストもふんわりとしていて、主人公の成長や変化がわかりにくいです。食を通して、人付き合いや会社でのスタンスが変わったか、変わらないんだとしたらなぜ変わらなかったのか、そこが書かれていないと、物語としての普遍性は弱く共感もしづらいお話になってしまいます。

「とあるNo.1ホストの都落ち」藤吉とわ

 太客の姫とトラブルを起こし、一時的に田舎に避難したホストの主人公。文体が主人公の受視点に統一されており、また田舎の描写や空気感も伝わってきやすく、物語に入り込みやすかったです。前作よりも主人公への共感性も高く、起承転結のメリハリがあり楽しく拝読しました。
 一方で、キャラクターの作り込みが甘い点と、コンパクトにまとまっているがゆえに展開が予定調和な点が気になります。攻も元ホストですが、なぜ辞めたのかの経緯などがわかりづらいです。また世界にほぼ二人しかおらず、二人だけで動かすエピソードや展開には限界があります。祖父が登場しますが、特に二人の仲を怪しまないので、都合のよいキャラになっている印象を受けます。これといった特筆するエピソードがないまま、お互いになんとなく惹かれていった印象なので、もっと具体的なエピソードが欲しいです。
 キャラに萌えて書いているのはとても伝わってくるので、次作はぜひ、総評で取り上げた「主人公の内面の変化」を意識して書いてみてください。そうすることで、情報を出す順番や盛り込むエピソードの具体性も変わってくるかと思います。

中間選考通過者で上記個別講評に漏れた方の中で、ご希望の方に簡単な個別講評をお送りします。

受付期間内に希望連絡いただいた方に7月25日(木)に送信を完了いたしました。
「ch-info@shoten.tokuma.com」から連絡いたしましたので、未着の方は「迷惑メール」に届いていないかご確認ください。
※応募いただいた作品への個別講評となります。改稿作や新作の送付はお断りしております。
※お送りした個別講評に関しましては、無断転載・引用・インターネット上やSNSへの掲載はご遠慮ください。

「第3回 キャラ文庫小説大賞」Q&A

「第3回 キャラ文庫小説大賞」応募予定の方から募集した質問に編集部が回答いたしました。ぜひじっくり読んで、応募作づくりにお役立てください!! たくさんのご応募お待ちしております!

「第3回 キャラ文庫小説大賞」Q&Aはこちら

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」大賞受賞作 書籍化決定!!

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」で大賞を受賞した『つつけば壊れる』(著:鳴海)の書籍化が決定! 2024年秋頃に発売予定です。ぜひ続報をお待ちください♥
※タイトルは変更になる場合がございます。

※公平を期するため、第2回キャラ文庫小説大賞選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。